幼なじみ
「そういえば小学三年生くらいだっけ、それくらいの頃にもこんなことがあったよね」
「トイレバトル?」
「ちがう!聡が学校に行きたくないって言って部屋から出なかったときがあったじゃない」
「あぁ、あったなー。なんで引きこもってたんだっけ」
「進級して私と違うクラスになってごねたのよ。『真琴ちゃんと違うクラスなら学校いかない』って。あの頃はかわいかったなぁ」
真琴が意地の悪い笑みを浮かべた。
「『クラスが違っても毎日遊んであげるから学校来なさい!』って部屋から無理やり引っ張り出されたんだっけ」
「うんうん。懐かしいなー」
「『私だって聡がいないと寂しいんだから』とも言ってたね」
「うぇ!?言ったっけそんなこと!?」
「言ってた言ってた。俯いて顔を赤らめて。恋する乙女のように」
「赤らめてない!乙女じゃない!過去を改ざんするな!」
「一言一句違わず覚えてるよ」
「なんでそんなにしっかり覚えてるのよ……忘れといてよ」
「真琴に関することならオセロの近畿地方王者レベルの記憶力を発揮できるのさ俺は」
「オセロが近畿地方でどれ程盛んなのか私はよく知らないんだけど……あ、そういえばあんたその頃、『大きくなったら僕真琴ちゃんと結婚するー』的なことよく言ってたわよね」
「人間の記憶ほど頼りないものはないよね」
「おい」
「あーそういえば、その年の夏には森で真琴がヘビに噛まれそうになったよねー」
「目が泳いでるぞおい。話を変えたいのならもう少し上手くやれよ……」
それから僕たちはしばらくの間、僕たちが知り合ってから起こった出来事を思い出して、話した。幼かった頃の僕と真琴と、そして結衣の記憶。僕たちはいつでも一緒にいた。どれを思い出してみても、僕らの隣には結衣の姿があった。でも結衣の名前は僕の口からも、真琴の口からも出ることはなかった。