【第十一回・弐】うらうらら
はじめは何もかもが初めてで戸惑って迷ってでも不思議と戻りたいとは思わなかった
どうしてだろうと考えたこともなかった
その逆はあったけど
【天】が自分のいるべき場所
【天】が自分の帰る場所
【天】に帰った時戻ってきたはずなのに何故かこっちに帰りたくなった
自分から戻って帰ってきたはずなのに
こっちに戻りたくて帰りたくて…
少し廊下が鳴るこの古い家
朝は毎日ドタバタしてて
天気のいい日は縁側から入る風が気持ちよくて
春には桜や庭の若木が綺麗で
夏は風鈴が鳴って潮の香が届いて
秋には枯葉が舞って
冬は雪だるまを作って
自分の居場所
『…好きなだけいりゃいいじゃん』
そう言ってくれてここが自分がいていい所だとそう思った
だから好きなだけいたいと思った
「わかってる…でも…」
【ずっと】
【永遠に】
思わないようにすればするほど思ってしまう
廊下の窓から何気に見上げた空
窓を開けてまた見上げる
春の朧月が星を隠して夜空にぼんやりと浮かんでいる
【いつか】必ず来る
『…ずっと続けばって思わないほうがいいよ…いつかは…』
その言葉で【今】を自分だけが思っているわけじゃないことを知った
【時】がくれた【今】が幸せでなくしたくないもの
一番嫌なことがくれた一番好きなもの
「……」
緊那羅の髪が夜風に靡いた
作品名:【第十一回・弐】うらうらら 作家名:島原あゆむ