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舞うが如く 第七章 10~13

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 そんなある日のことです。


 書類を片手に、糸取り工場を横切っていく琴が
顔を真っ赤にしながら、それでも懸命に作業を続けている
咲の姿を発見をしました。
時折り我慢しきれずに身をよじる有様に、
見かねた琴が咲の隣へ立ち止まります。



 「咲さま、
 余りに我慢をいたしますると、身体に良くありませぬ。
 器械ならば、蒸気にて動きもいたしまするが、
 生味の身体は、喜怒哀楽によって身を案じてこそ動くというものです。
 8升ばかり取るのが、優秀な工女とは言えませぬ。
 体調をしっかりと整えておくのも
 また、工女としての大切なお務めのひとつです。
 無理に我慢せずとも、早く厠へ行きなさい、
 ただし淑女は、走らぬように。」



 と、目を細めながら、まだ身をよじり続けている咲に助言をします。
言われた咲が、嬉しそうに一つうなずくと、
静かに歩み始めましたが、その半分も行かないうちに、
脱兎のごとくに駆けだしまいます。


 「さすが琴さま。
 見事な一本に、ございまする。」


 「ありがとう。
 まだまだ、腕は落ちていない様にありまする。
 民子さまも、器械人間などにはならぬよう、時には、充分に
 気持ちを緩めてくださいまし。
 精を出すこと自体は大切なれど、
 長く続けてこその、お仕事ですゆえ。」



 「万事、心得ておりまする。
 脚気のおりには、皆さまにあれほどまでの
 ご迷惑をおかけしたゆえ、
 この身に、心底しみておりまする。
 健康もまた模範工女の務めです、
 充分に、心しておりまする。」


 「さすがに、一等工女です。
 やはり、見上げた心がけにありまする。」


 「一等工女でありますか・・
 え・・・この、わたくしがですか?」



 「まだ、内密の話ゆえ、
 ここだけの秘密のこととして、他言などはなさいますな。
 さきほど書類をいただきましたる時に、
 咲どのも、ともどもに一等工女と相なりました。
 よかったですね、民子さま。
 努力も、苦労もそれぞれに、
 きっと、必ずに報われるものにありまする。」



 にっこりと笑って、琴がゆっくりと立ち去っていきます。