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舞うが如く 第七章 10~13

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舞うが如く 第七章
(12)糸取り競争

 糸とりの仕事にも慣れてくると
自然と気持も緩み、少し余裕も生まれてきました。
並んで仕事をする民子と咲の二人も、みんなの目を盗んではこっそりと、
おしゃべりをする機会などを増やしています。


 もちろん、中廻りや指導員がそばに居ないときに限ってのことです。
また、作業の途中で手洗いに発つ時などでも、
常に二人は一緒に行動をしました。
話を続けながら持ち場へ戻りますのでいつしか仕事のほうも、
遅れがちになってしまいます。


 「この二人は、まったくもって仲がよすぎる・・」
見回りの指導員たちからは、時々そんなつぶやきが漏れてきます。
それでも仕事に慣れてきたためか、
そんな風におしゃべりをしながら手を抜いていても
1日に糸とりをする繭の枡数は、4升から5升ほどと、毎日同じように
成果をこなしつづけていました。



 ところが思いがけなく、この風向きが変わりはじめます。



 おなじブロックで並んで仕事している、武州から来た、
小田切おせんさんと言う女工さんは、すこぶる元気に仕事をしていています。
ときには、繭を6升までも取ったりしていました。



 ある日それがついに、8升を取ったという評判が聞こえてきました。
それから、まもなくのことです。
民子と咲を担当する指導員でもある深井さんが、



 「君達も手が早いので、
 もっと頑張れば8升くらいは、楽に取れると思うのですが。」



 とさりげなく、けしかけてきます。



 「8升なんて、とても私たちには無理です」

 と、咲が、ケロリと答えます。
とりあえず、そうは答えたものの、根は負けず嫌いの二人です。
このまま収まるはずがありません。