小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

舞うが如く 第七章 10~13

INDEX|3ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 



 結局、咲が常時付き添うことで落着をします。
一同はそれぞれに、その日は一旦各自の持ち場へ戻りました。
しかし様子を見たものの、その後も民子に食欲も無く、
食事もまったく進みません。
足も全く立たなくなったために、「はばかり」へ行くにも咲が肩を貸して
通い、介助することになりました。
それにもかかわらず、回復への兆しは一向に見えず、
ただ時間と月日だけが流れます。



 最年少の咲は、泣き言一つ言わずに、
病室と自分の部屋の間を、走ったままでの往復を連日繰り返しました。
三度三度の食事のために、咲は自分の部屋まで全速力で駆けてもどります。
急いで自分の食事を済ませると、今度は小さな体をはずませて、
七十五間とその先の十間余の長廊下を全力で走りぬけて、
民子が心待ちにしている病室へと戻ってきます。

 そんな咲による看護の日々が、およそ3か月あまりも続きました。


 すこしだけ回復のきざしを見せたはじめた民子に、
入湯の許可が初めて出ました。
小さな咲が、やせ細ったとはいえ、長身の民子をおんぶして、
ようやく湯殿にまでたどり着きます。



 共々に裸となり、小さな咲が、細身の民子を抱きかかえて、
やっとお湯へとつかりました。
周りにいた工女たちが、それをのぞいて口ぐちに笑いましたが、
咲には、笑う余裕などはまったくもってありません。


 湯気の中で、抱きかかえられた民子が小声で
咲の耳へ、なにやら短く囁きました。
顔を真っ赤にした咲が、嬉しそうにこくんとひとつ頷きます。
どんな言葉であったのか、それは誰にも聞こえません。
しかし傍目にも分かるほど、
余りにも嬉しそうな咲の様子に回りの工女たちは、
ただただ首をひねるばかりでした。