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20日間のシンデレラ 第1話 やり直したい過去がある

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〈8月13日 (土) 0時2分〉

静寂を切り裂いて、急にベッドから起き上がる陸。

  陸  「はぁ……はぁ……」 

激しく呼吸が乱れている陸。

少し落ち着くと肩を震わせながら、

  陸  「はは……」

不気味に笑う陸。

急に立ち上がり電気をつける。

部屋が息を吹き返したかのように明るくなる。

カーテンを勢いよくあける。 

火がついたままの蝋燭を見つける陸。

さらに笑い声は大きくなり、気が狂ったかのように、

  陸  「はっはっはっはー」

腹を抱えて大笑いをする陸。

立ったまま壁にもたれ掛かり、

  陸  「やっぱ俺は馬鹿だ……そんな事あるわけねぇよ……」

そのままベッドに歩いていく。

その瞬間、激しい胸の痛みに襲われる陸。

そのままばたんと床に倒れ込む。

  陸  「うっ……」

うつろうつろな目がゆっくりと閉じていく。

意識を失う陸。

    ×           ×           ×

〇真っ白な世界


陸の意識がゆっくりと目覚める。

周りは真っ白で何も存在しない。

何故か体が宙に浮いている感覚がある。

流れに身をまかせている陸。

急に目の前から一つの情景が飛び込んでくる。

教室。
     
人の動きを確認できる。

天上ほどの高さからそれを眺めている陸。

不意に自分の姿を発見する。

恐らく小学校五年生の自分。

授業中にも関わらず、机に突っ伏し爆睡している。

がやがやとおしゃべりをしている生徒達。

段々、音が鮮明に聞こえてくる。

イダセン 「おーい、静かにしろ」

生徒の注意をこちらに引き付けるイダセン。

白のチョークで書かれた文字の下に、黄色のチョークでアンダーラインを引く。

イダセン 「えーつまりもののかさの事を体積と言い、一辺が一センチの立方体の体積を一立方センチメートルと言います。 体積を計算で求めるには公式があって立方体は一辺×一辺×一辺で答えが出て来ます。 では直方体を求める公式はなんでしょう?」

一斉にイダセンから当てられないように目線をそらす生徒達。

黒板の隅に書いている日付を確認するイダセン。

イダセン 「じゃあ今日は7月6日だから出席番号6番の……」           

ぐおーと突然、教室中に響く大きないびき。

空気が変わる。

しばらく経って再び話し始めるイダセン。

イダセン 「そう……今日は7月6日。 なので出席番号3番、出雲陸。 答えなさい」

生徒一同(日付全く関係ねぇー)

陸に視線が集まる。

なおも起きない陸。

花 梨  「ちょっと陸、あんた当てられてるよ。 早く起きろって」

隣の席から焦りながら、無理やり陸をたたき起こす花梨。

何とか席を立ち上がらせる。

目を擦りながらまだ寝ぼけている陸。

  陸  「ん……おう、花梨おはよう」

陸の態度を見かねてすかさず同じ質問を繰り返すイダセン。

イダセン 「さぁ、出雲。 直方体を求める公式は何だ?」

  陸  「えーと、直方体は……」

言葉に詰まる陸。
 
小声で陸に向かって答えを教える花梨。

花 梨  「たて×横×高さっ!」              

寝ぼけた顔でちらっと花梨の方を見る陸。

はっきり聞こえなかったのか、首をかしげている。

まぶたが開いたり閉じたりして、なんとか起立の姿勢を保っている陸。

  陸  「たて×横×……」

答えが分からず苦しんでいる陸。

ふと教室の入り口の方に目をやると少年柔道県大会優勝者の藤川が、机の下で隠れて

ダンベルを使い筋トレをしている。

真剣な表情で、算数の授業に似つかわしくない大量の汗をかいている藤川。

はっと何かに気付く陸。

次第に自信満々に満ちた表情になる。

ゆっくりとイダセンの顔を見て、
 
  陸  「……気合!」

途端に教室が静かになる。

唖然となっているイダセン。

そのタイミングで授業終了のチャイムが鳴り響く。

沈黙。

花 梨  「ぷっ……」

緊張の糸がとけたかのように一斉に爆笑する生徒一同。

花梨もお腹を抱えて笑っている。

いまいち自分が何を言ったのか寝ぼけて実感がない様子の陸。

イダセン 「よし、わかった。 お前はたて×横×気合で直方体の面積がもとめられるんだな? 出雲は次の授業までに、宿題の算数ドリルの答えを普通の公式とお前の言う公式の二通りを書いて提出しろ。 それとこの後、職員室に来い! 以上だ」

我に返り、青ざめた顔で突っ立っている陸。

なおも笑い続けている生徒達。

   ×           ×            ×

無表情でその様子を眺めていた陸。

意識を上に向けて、その場からふわふわと去っていく。

またしても周りは真っ白。

流れに身をまかせている陸。

急に目の前から一つの情景が飛び込んでくる。

再び教室。

黒板を消している花梨。

ほうきを指の上に乗せてバランスをとっている陸。

教室には二人しかおらず、他の生徒は下校している。

窓から差し込むオレンジの夕日。

その光が黒板の隅に書いている文字を照らす。

(7月1日 日直 出雲 池田)

黒板を消しながら陸の方を見ないで、      

花 梨  「なぁ、陸」

  陸  「何だよ? おっ、いい感じだ」

ほうきを指の上に乗せたまま、教室の中を歩き回っていく陸。

急にうつむく花梨。

表情がはっきり見えない。

黒板を消す手が止まる。

花 梨  「あたしさ……転校するんだ」

立ち止まる陸。

指の上からほうきが落ちて、教室に大きな音をたてる。

窓の外から下校途中の生徒の声がうっすらと聞こえる。

  陸  「嘘だろ? どうせまた俺をからかってるんだろ?」

苦笑いで花梨に問いかける陸。

振り返り陸の方を見る花梨。

少し微笑み首を横に振りながら、

花 梨  「嘘だったら本当にいいんだけどね。 今日寝て次の日の朝、起きたら実は全部嘘でしたーって言われていつものように変わらず学校に行けたらいいのに……」

真剣な表情の陸。

恐る恐る花梨の方を見て、

  陸  「いつ転校するんだ?」

花 梨  「今月の末にはこの教室からあたしはいなくなる」

花梨がこの教室で過ごしている事を証明できる物がピックアップされていく。

教室の後ろに飾っている花梨が書いた習字の作品、給食当番表に載っている花梨の名前、

そして花梨の机。

花 梨  「父さんの新しい仕事がやっと決まったんだ。 会社をやめてからずっと家にいて、何か元気がなかったんだけど……その時の父さんはすごく嬉しそうだった。 また頑張って欲しいなって思ったんだ。 そんな姿を見てたらさ、引越ししなくちゃいけないって言われても嫌だなんて言える訳ないよね? あたしのわがままで転校したくないなんて言える訳ないよね?」

花梨の目から涙がこぼれる。

  陸  「花梨……」
     
花 梨  「陸……手、出して」

ゆっくりと右手を差し出す陸。

花梨が何かを手渡す。