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20日間のシンデレラ 第1話 やり直したい過去がある

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突然、時計が大きな音を立てて鳴り出す。

針は三時を指している。

恵 子  「結論から言うと可能よ」

真剣な表情の恵子。

動揺している陸。

恵 子  「正確には過去に戻るというよりも、現在の意識を過去の自分に憑依させるのに近いかしら」

  陸  「憑依?」

恵 子  「ええ、魂を移動させるの。 そうすれば自由に行動する事ができる、つまり自分の思うように過去を作り変えれるって事。 理解?」 

  陸  「あぁ……」

強張った表情の陸。
      
恐る恐るもう一度、恵子を見て。

  陸  「それは……俺にもできるのか?」

恵 子  「ええ……できるわ」

恵子の口元がゆっくりとそう動く。

急に人が変わったように声を荒げて、

  陸  「教えてくれ、その方法を!」     

ゆっくりと席を立つ恵子。

窓の近くまで歩きカーテンを開ける。

やわらかな光が差し込む。

蝉の鳴き声が聞こえる。

近くにある木の下のほうに、ぽつんと蝉の抜け殻が置かれている。

それを眺めながら、

恵 子  「ねぇ、蝉は自分達が土の中にいた時の事を覚えているのかしらね……成虫になってから残り少ない時間を後ろを振り返る事なく生きていけてるのかしら……」

黙ったままの陸。

恵 子  「出雲……あんたを動かすものは一体、何なの?」

  陸  「やり直したい過去がある。 それがこの先、自分が生きていく上で大きく関わっているような気がするんだ」

恵 子  「そう……じゃあ変わりに何かを犠牲にする覚悟はある?」

陸の方を振り返る恵子。

空気が変わる。

光が当たってあまり表情が見えない。

  陸  「一体、何を?」

恵 子  「あんたが仮に8月25日に戻りたかったら、その日までの8月1日から8月24日のどれかの日に戻る事が出来る。 ただそれを指定する事は出来ない。 そして8月25日を迎え26日の0時になった瞬間、意識は儀式を行った元の時間に帰ってくる」 

ゆっくりと陸の方へ歩いてくる恵子。

恵 子  「新たに生まれた一ヶ月以内の記憶が、周りの世界を完全に書き換える事になるの。 自分も他人もね」

陸の目の前でぴたりと立ち止まる恵子。

恵 子  「元の世界に戻ってきた時、恐らくあんたは二つの記憶を持っている。 けど時間が経つごとに元々あった本当の記憶は薄れて、最終的には完全に忘れてしまうわ。 それがこの黒魔術の呪い。 犠牲よ」

言葉を失う陸。

顔がひきつっている。

恵 子  「それでも過去に戻りたい?」

陸の脳裏によぎる声。

過去の陸の声  「寂しくなんかねーよ」

頭を抱えている陸。

またしても声。

過去の陸の声  「うるせぇーーーーお前なんかとっとと転校しやがれ!」

沈黙。

ゆっくりと顔を上げる陸。
     
  陸  「あぁ……もう決心はついた」

落ち着いた表情の陸。

ふーとため息を吐き本棚を指差しながら、

恵 子  「あんたがさっき勝手に読んでた本、貸したげるわ。 書いてある通りに実行すれば儀式は失敗しないから」
     
  陸  「そうか、じゃあ借りてくよ」

席を立ち上がり、本棚から本を取り出して鞄に入れる陸。
      
そのまますたすたと玄関に向かう。

  陸  「悪かったな」

声をかけて歩いていく陸。

恵 子  「私は一応、確認したからね」

  陸  「あぁ、感謝してる」

遠くなる陸を見ている恵子。

急に陸の足が止まる。

こちらを振り返って、

  陸  「なぁ、お前は黒魔術を何に使うつもりなんだ?」

椅子に体育座りをして、片方の手を猫のように手招きしながら、

恵 子  「コロッケ持ってきたら教えてやらんでもない」

  陸  「あほ」

きびすを返して、片手を挙げながら玄関を出て行く陸。

ドアがばたんと閉まる。

    ×           ×           ×

席を立ち、音楽を止める恵子。

室内が急に静かになる。

恵 子  「変わりに何かを犠牲にする覚悟はある? だって、ほんと我ながら笑ってしまうわね」

本棚の前に立ち一冊の黒魔術の本を手に取る恵子。

その本を眺めながら、

恵 子  「彼が望むのなら仕方がない……けど今の私には必要ないわ」

その本を近くにあったごみ箱にぽいっと投げ捨てる。

恵 子  「あなたもそう思わない?」

突然、ちりんと鈴の音が聞こえる。

奥から一匹の黒猫が現れる。

にゃーっと返事をするように鳴く黒猫。

恵 子  「翔太……」


〇一人暮らしの陸の家 寝室(数日後 深夜)


(1、 本術は、友引を迎える日に行う事)      

真っ暗な部屋。
   
ケータイを見る陸。

〈8月12日 (金) 23時50分〉
      
確認し終わると、そのままケータイの光をカレンダーに近づける。

〈8月13日 (土) 友引〉

ごくりとつばを飲む陸。

(2、 部屋は6畳以内の四角形でなければならない)

入り口のドアの前に立ち、全体を見渡す陸。

一人うなづく。

(3、 部屋に人口音が聞こえてはならない)
  
張り詰めたような静けさが、部屋に流れている。

(4、 戻りたい日付を墨で書いておくこと)
     
用意していた半紙を机の上に置く陸。

墨汁をすずりの上にどくどくと垂らして、手に持った筆につける。

書き始めようとした手がぷるぷると震えだす。

再び元の位置に筆を引っ込め墨を付け直す。

  陸  「(あの日を忘れるわけないだろ……)」

勢いよく半紙の上を筆が滑っていく。

半紙の上に書かれた文字。

〈2000年 7月23日〉

ふーっと息を吐き、額に流れる汗を拭く陸。

(5、 蝋燭一本を部屋の中央に置き、明かりをつける)

中央を占めていた小さいテーブルを壁際に寄せる陸。

そのスペースに蝋燭を一本立てる。

ポケットからライターを取り出し、蝋燭に火をつける。

真っ暗な部屋にやわらかな一つの火がともる。

しばらくその火を眺めている陸。

時間がない事に気付き慌てて、作業を進める。
      
(6、 友引を迎える瞬間【0時0分0秒】、戻りたい日付を書いた紙を持って目を閉じ呼吸をしてはいけない)

ケータイで時間を確認する陸。

〈23時58分〉

半紙を手に持ち、仰向けにベッドに横になる陸。

体をだらんと伸ばしリラックスさせる。

ふと横を見ると蝋燭の火がゆらゆらと揺れている。

その火を眺めながら、

  陸  「俺、これでよかったんだよな……」

ぼそっとつぶやく陸。

ケータイの画面を見る。

〈23時59分〉

体の向きを元に戻し天井を見つめる陸。

全く何も聞こえない空間。

陸にだけ聞こえる、激しい心臓の高鳴り。

急に、手の中でケータイのバイブレーションが二、三回鳴る。

そしてすぐに鳴り止む。

あらかじめ設定しておいた、友引を迎えたという合図。

ゆっくりと目を閉じる陸。

深呼吸した後、息を止める。

    ×           ×           ×

ケータイの画面。