20日間のシンデレラ 第1話 やり直したい過去がある
よく見ると自分で作ったのだろう、青と黄色の糸でできたミサンガが手の上に置かれている。
驚き、花梨の方を見る陸。
花梨、涙を浮かべながら笑顔で、
花 梨 「失くしたら許さないからね」
無言でそれを受け取る陸。
× × ×
無表情でその様子を見ていた陸。
意識を上に向けて、その場からふわふわと去っていく。
流れに身をまかせている陸。
次第に気持ちよくなって、目をつぶる。
どこまでも流れていく陸。
× × ×
〇実家 陸の部屋(2000年 過去)
急にベッドから起き上がる陸。
汗をびっしょりとかいて、息が乱れている。
カーテンから漏れている光。
雀の鳴き声が聞こえる。
おもむろに手を伸ばし、近くにあるケータイを手にとる。
しかし、あるはずのケータイがない事に気付く。
全身が締め付けられるような窮屈な感覚。
急に下の階から大きな声で、
母 「陸ーあんたそろそろ起きないと学校に遅刻するわよ」
ずっこけそうになる陸。
陸 「ガキにするような言い方してんじゃねーっつうの」
ぼそっとつぶやく陸。
うーんっと両手を上に挙げて、伸びをする。
一瞬、動きが止まる。
陸 「ん……ガキ?」
とっさに服ダンスのドアを開ける陸。
大きな鏡が現れる。
陸 「あ……」
鏡には可愛らしいパジャマを着ている、小さな陸が写っている。
恐る恐るズボンを前に引っ張って、下半身を確認する陸。
何もかもが小さくなっている事に気付きその場に泣き崩れる陸。
陸 「俺……」
段々、声を荒げて、
陸 「まじで過去に戻っちまったーー」
大声で叫ぶ陸。
下から同じぐらいの音量で
母 「早く仕度しろ、この馬鹿!」
× × ×
〇玄関先
陸 「行ってきまーす!」
黒いランドセルを背負って、走っていく陸。
給食当番の白い袋がぶら下がっている為、少し重たく感じる。
陸 「(えーっと、今日は2000年の7月3日か。 花梨が転校する7月23日まで20日はあるって事だな。 てか行ってきまーす! 何て母親に言ったの一体、何年ぶりだろ俺……)」
連絡帳を確認しながら勢いよく走り抜けていく陸。
陸 「あ、そうだ」
急にUターンをして別の道を進んでいく。
〇路地
階段のように高くなっていく石のブロックの上を、バランスを取って綱渡りのように歩いていく陸。
真横に家の窓が見える。
陸 「川島のじいちゃーん、学校行ってくる」
窓に向かって声をかける陸。
〇川島のじいさんの部屋
テレビを見ながらおかきを食べている川島のじいさん。
窓の外に目をやると、陸の足だけが見えて先に進んでいく。
川島のじいさん 「おー陸ちゃん、気をつけてな」
陸 「うん」
〇原っぱ
勢いよく草を掻き分けて進む陸。
陸 「(俺は今、小学生なんだ、 その自覚を持たないといけないな。 確かここから学校の裏に続くフェンスが……)」
遠くに緑のフェンスを見つける陸。
陸 「(あった!)」
その勢いのままフェンスの穴に足を引っ掛け、あっという間に飛び越える陸。
きらきらと太陽が、宙に舞い上がっている陸を照らす。
綺麗に着地をして再び走っていく陸。
× × ×
〇5年4組 教室
チャイムが鳴る。
がらっと勢いよくドアが開く。
陸 「セーフ!」
汗だくになりながら陸が駆け込んでくる。
イダセン 「何がセーフだ、出雲」
後ろから頭をつかまれる陸。
陸 「ぐ……」
逃げるように自分の席に向かう陸。
しかし、どこかわからず一人であたふたしている。
清 水 「なーにやってんだよ」
清水が意地悪そうな顔で、自分の近くにある机をばんばんと叩いている。
久しぶりに見る、頭の悪そうな小さい清水を見て思わず笑いそうになる陸。
清水が叩いている席に座り、ランドセルを横にかける。
懐かしさに浸ってる暇もなく、
清 水 「よう陸、昨日のノリノリ天国見たか? 俺、録画してたのに結局朝の3時まで見ちゃってさーあれはまじですげー興奮……」
ごつんとゲンコツを食らう清水。
イダセン 「エロ話は後にしろ」
清 水 「は…い」
生徒が一斉に笑い出す。
イダセン 「よーし、じゃあ朝の会をはじめるぞー」
ゆっくりと後ろのドアが開いていくのに気付く陸。
陸 「ん?」
宙に浮いた赤いランドセルが少しずつ動いている。
イダセン 「今日の日直は前田と池田だ」
がたっと音を立てて、前田が教壇へと向かう。
空席になっている花梨の席。
イダセン 「まーた遅刻か、何をやってるんだ池田は!」
イダセンが大きな声をあげる。
すると花梨の席のすぐ側から、
花 梨 「すいません、分かりません、聞いてませんでしたー」
ほふく前進の体勢から立ち上がって、にょきっと姿を現す花梨。
申し訳なさそうに深々と頭を下げている。
しーんとなる教室。
イダセンが頭を抱えながら、
イダセン 「池田……まだ授業中じゃない」
花 梨 「へ……」
目を丸くしている花梨。
隣の席で同じように目を丸くしている陸。
陸 「花梨……」
――つづく――
――第1話 「やり直したい過去がある」――
作品名:20日間のシンデレラ 第1話 やり直したい過去がある 作家名:雛森 奏