察人姫-第壱話-
「まだコレ乗ってるんですか?」
「まだ五年目だぞ?お前らがギザ十で傷つけてくれたコイツは」
「いや、あれはソラが勝手にしたことで……」
「ユーイチもガリッてやったもん」
青英大学駐車場。
講師、事務員とお客様だけが利用できる広い駐車場に一際目立つ黒い早坂の愛車。
ベから始まりツで終わる三文字の名前。
早坂がローンを組んで購入した高級車だ。
「あれから随分髪を伸ばしたものだな、浅蔵」
「そりゃ丸坊主と較べりゃそうですよ……あれって体罰ですよね?」
「愛の鞭と言え。佐伯は……変わらんな」
「私は反省文とトイレ掃除でしたから」
高校時代から変わらないボブカットの黒髪をいじるソラと、丸坊主だった髪を地道に伸ばし、パーマのかかった茶髪をサイドミラー越しに確認するユーイチ。
「まあ乗れ。佐伯、助手席に乗せてやるぞ」
「ホント?ありがと、センセー」
高校時代、この車の助手席に乗りたいとソラが常々言っていたことを忘れていなかった早坂は助手席のドアを開き、ソラに言う。
「あ、じゃあ僕は運転席で」
「もう一度頭を丸めてやろうか?」
「いえ……すみません」
高校時代の制裁がフラッシュバックしたのか、苦笑いを浮かべたユーイチはすごすごと後部座席に座り込む。
「さて、それじゃあ行くぞ」
「あ、センセー」
「なんだ?」
「トイレ」
「……」
「……」
本当に大学生かと呆れる早坂に、またかとため息を吐くユーイチ。
そんな二人を車内に残してソラは近くのトイレに早足で歩いていった。