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察人姫-第壱話-

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「さてと、次にクリアしなきゃならない問題はなんだっけ?ユーイチ」
「どうやって浸入したか……じゃないか?」
「あ、そうそう。それだった。これもトラちゃんだから出来たことなんだよね」
 寅田は事件日当日、藤村が見回りをする時には帰宅しており、藤村は一人で閉めの作業をし、万全すぎる夜間警備のセンサーのスイッチを入れて帰宅した。いくらセンサーの場所を熟知している寅田でも外からの浸入は不可能に近い。
 藤村が共犯で、証言や記録が嘘のものである可能性はあるが、ソラとユーイチは今までの藤村の言動から、事件において寅田とは無関係だと判断した。藤村の力を借りるまでもなく浸入は可能だからだ。
「見回りは毎晩基本的に一人……そうでしたよね?藤村さん」
「あ、ああ。あの日だって俺は一人で、ちゃんと決められた順番通りに見回りをした」
 ユーイチの問いに藤村は頷いて答える。
 それを確認して、ソラは推理の発表を続ける。
「そう、決められた順番……それを誰よりも知っているのがトラちゃんだよね?だったら簡単、最初から学校に隠れてて、見回りの時間になったら後半に見回りをする場所に移動して、藤村ちゃんが近づいてきたら見回り済みの場所に移動。順番さえ把握してればそんなに難しいことじゃないよね?」
「……そうだな、可能だ。他の警備員にやらせても十中八九成功するだろう」
 これもまた否定せずに、ソラの推理の続きを待つ寅田。
 そして次は人数の問題。いくら浸入が可能でも一人で一夜の間に二十二の部室を荒らすことは、不可能ではないが厳しい。特に高齢である寅田なら尚更。
「さて、それじゃあ次に犯人の数だね。とりあえずトラちゃんが主犯っていうのが私の推理だけど、共犯者は当然いる。トラちゃんだけじゃしんどいしね」
「どうかな?まだまだ体力には自信があるが……」
「ムリだよ。ただ部室を好き勝手荒らすならまだしも……今回の場合はね」
 意味ありげな笑みを浮かべ、ソラは寅田の言葉を遮る。
 そんなソラに寅田は僅かに目を細める。それが推理が始まってから初めて寅田の表情に変化があった瞬間だった。
「じゃあトラちゃんにも一つ確認。事件日にトラちゃんが勤務に入ってることからあらかじめ共犯者を学園内に忍ばせることは可能だよね?」
「ああ。だが、さすがに複数名で固まったまま見回りを回避するのは厳しいぞ?場所によっては施錠により完全に閉じ込められてしまう所もある。そして事件後の朝、内側から鍵が開けられた形跡はなかった」
「うん、だから共犯者もそれぞれが移動して見回りを逃れたんだよ。トラちゃんと同じ方法で」
「犯人なのは確定か……まあいい、だがそうも上手く動けるとは限らないんじゃないか?いくらあらかじめルートを知っていても複数人となれば動ける範囲は限定される。イレギュラーがあればすぐにバレてしまうぞ?」
「大丈夫だよ。だってみんなルートなんて確認しなくても頭に入ってる……あ、そう言えば共犯者の名前ってまだだったよね」
 そしてソラが挙げる三人の名前。
 それらは全員かつて保澄学園で寅田と一緒に警備員をしていた者の名だった。



作品名:察人姫-第壱話- 作家名:朝朽 司