察人姫-第壱話-
「保澄で事件……ね。その様子だと行き詰まったようだな」
「はい、鍵がどうしてもネックなんですよ」
「で、俺を頼って来たと……。それで?そこのちっこい名探偵もお手上げなのか?」
「む、その人が本気で気にしてることをいじるのはシュウちゃんの悪い癖だよ」
「別に悪くないだろ?胸はでかいんだし、ロリ巨乳って言った方がいいか?」
「セクハラはもっと悪いよ……」
ご飯粒一つない、ケチャップが薄く乗った二枚の皿を洗いながら周助はソラを笑いながらからかう。
「そう怒るな怒るな。で、部室荒らしだったか?」
「うん、荒らされた部室は二十二。だけどどの部室も窓や鍵は閉まってて、鍵穴も傷んでないの」
「で、被害の程は?」
「壊されたっていうより散らかされた感じだよ。壊されたものも特別効果なものじゃないし、大切な品でもないみたい。どちらかと言うと捨ててもいいものとかが壊されたってケースがほとんどだね」
この事件の一番不思議な点は犯行の難易度が高い割りには被害が少ないということである。限られた時間、高いセキュリティ、二十二の部室の鍵……これらの条件をクリアした上でこの被害にソラとユーイチ、そして周助には疑問を感じずにはいられなかった。
「手がかりは学園指定の靴跡だけ……なかなかに面白そうだが、逆に言えば犯人はその条件をクリアできる人間ってことだ。誰にも、いつでも、どこでもできる犯行よりよっぽど楽だな」
「え、シュウちゃん分かっちゃった?」
「バカ、そんな名探偵じゃねぇよ。第一俺はこの店のマスターだ。推理や調査はお前らで勝手にやれ……けど、一つ考えついたことがあることにはある」
「え、なになに?」
期待に満ちたソラの視線に鬱陶しく感じながら自分用に淹れたコーヒーを一口含み、周助は言う。
「この事件、本当は大したことはねぇんじゃね?」