察人姫-第壱話-
野球部専用グラウンド。
「悪いな、待たせて」
「いいよいいよ、ユーイチは人気者だからねー」
バックネット裏のベンチに不機嫌そうな表情で座るソラの隣に謝りながら座るユーイチ。
あれからここに来るまでユーイチは計三度生徒達に捕まり、結局三十分近くグラウンドに来るのが遅れてしまった。つまり、ソラは三十分間待たされていたことになる。
「とりあえず監督とキャプテンからは簡単に聞き込みしておいたから。ユーイチが女子高生に囲まれている間にね」
「悪かったよ。で、どうだった?」
「練習が終わったのが七時で、自主練も終わって部室の鍵をキャプテンが閉めたのが八時半。もちろん部室を閉める前は荒らされてもない。過去にこんな被害を受けたことはなくて、部室の鍵や窓にも不具合はなかった……あんまり時間は取れなかったけど、まとめればこんな感じかな?」
「そっか。多分他の部活もほとんどがそんな感じだろうな」
そのユーイチの言葉の通り、男女のサッカー部、テニス部、ラグビー部、アメフト部、ソフトボール部、陸上部、バスケ部、バレー部、卓球部などの被害を受けた部活全ての聞き込みをした二人だったが、どの部室にも不備はなく、過去に被害や恨みを買うようなことをしたこともないのだという。
「……となると、やっぱり鍵の問題か」
「二十以上の部室の鍵を開けるなんて、マスターキー持ってるツトムちゃん以外無理だよね」
「そうだな。けど、理事長が部室を荒らすメリットなんて一つもない」
「うーん、犯行のパターンはいっぱいあるけど……やっぱり鍵がネックだよ」
完全下校時刻が近づく夜の保澄学園、その近くのバス停で考察する二人だったが、結論は出ない。ピッキングなどの可能性も上がったが、鍵穴に何の傷もないことからそれは考え辛い。無論、プロなら鍵穴を一切傷つけることなく開けられるかもしれないが、大した被害が出ていない今回の事件を考えるとこれも難しい。プロの力を借りるのならもっと派手にする筈だ。そうじゃなきゃ割に合わないからだ。
「仕方ない、シュウさんの所に行くか」
「うう、また貸し作っちゃうよ……」
「お前が一週間で全部解決するって言ったのが悪いんだろ」
ため息を吐いてそう呟くユーイチにソラも仕方ないといった表情で頷いた。