察人姫-第壱話-
「元々足跡がついていたというのは……?」
「いえ、生徒から話を聞きましたが、そのような足跡がついた」
「となると……犯人は生徒でしょうか?」
「あまり考えたくありませんが……おそらく」
校長の話によると靴のサイズは28cmで、購入できるのはその年度の生徒手帳を持つ在校生のみ。さらに登下校は学園指定革靴を履くことが義務づけられており、門で警備員が見送っていた限りでは他の靴を履いているものはいなかったらしい。
「まあ警備員の人も全員の靴を見ているわけじゃないから不確かではありますけど。あれ?ってことは……」
「そうだね、ユーイチ。わざわざ夜中に侵入するのにアシがつきやすい革靴を履いて来るとは考えられないし、もっと運動に適したシューズを履く筈……。つまり、犯人は犯行時間まで学園内にいたことになるね」
学園に備え付けられたセンサーも校舎内や学園中心部にまで張り巡らされているわけではない。あくまで侵入者用で、その範囲は外縁から内部にかけての約十メートル。それより内側であればセンサーには察知されない。超人的な動きでもしなければ外部からの侵入は無理と二人が判断した理由はそれである。
「ちなみに28cmの靴を履いている生徒からは既に聞き込みを?」
「はい、念のため誤差1cmの範囲で生徒から聞き込みは行いましたが……」
犯人の目星はつかなかった。
当然だ。そうでなければ事件は解決している。
「ま、靴なんて盗まれる可能性は多いにあるし、本当に生徒の仕業だなんてありえないしな」
「もしかしてユーイチ、藤村ちゃんを疑ってるの?」
「いや、可能性の話だよ。ただ、こうなって来ると一番犯行が可能なのが藤村さんって話だ」
藤村という名前に校長はピクリと反応したが、特に何も言うわけでもなく、そのままユーイチの仮説を聞く。
「藤村さんならセキュリティ問題は簡単にクリアだ。学園のどこかに隠れる必要もないし、靴だってここの出身なんだから在学時代に使ってたのを使える」
「でも、問題は一つあるよね」
「ああ、鍵だ。鍵穴に破損はないから無理にこじ開けたわけじゃない。警備員室にあるマスターキーには部室の鍵は含まれてないから、かならず鍵を使っている筈……だが、二十もの部室の鍵を用意できるとは考えられない……それが決め手に欠ける」
そして何より、動機がなかった。
特に野球部の部室を荒らす理由が……。
チームをキャプテンとして引っ張り、プロ入りしてから大会の応援や差し入れにも来てくれたという藤村。
カモフラージュのためだとしても、藤村が野球部に危害を加えるなんて誰も思わないのだ。