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男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず)

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「ジュン、もう一度、お水を頂戴」
アイが甘い声でねだってきた。

「ああ」
ジュンは軽く返事をし、水を口に含み、アイに口づけをして飲ませてやる。

アイはそれを受けて、またゴクリゴクリと飲む。

こんな行為も、淫靡(いんび)な愛欲の世界を味わってしまった二人にとっては、特に胸を震わせるものでも何でもない。

そしてアイは冷静な口調で囁く。
「ねえ、ジュン、お願いがあるの」

「何を?」
ジュンは直ぐさま聞き返した。

「ねえ、私・・・・・・変若水(おちみず)が欲しいの・・・それを取って来て欲しいの」
アイはジュンの耳元でこう囁いてきた。

「変若水って?」
ジュンはそんな言葉を初めて聞いたのか、首を傾げながら聞き返した。
アイが自分自身でもう一度確認するかのように話す。

「変若水(おちみず)ってね、神代の時代に月の神・月夜見(ツクヨミ)が愛飲した水でね・・・・・・若返れるのよ。

万葉集でも詠われてるわ、『天橋も 長くもがも高山も 高くもがも 月夜見の 持てる【をち水】 い取り来て 君に奉りて をち得てしかも』ってね。

その変若水、効き目が凄くってね、その水さえ飲めば、もうお肌もカサカサにならないし、ずっとずっと若くあれるわ。

だから私・・・・・・その水が飲みたいの」

ジュンは「ほー」と単純に頷くしかない。
そして、「その変若水とやらは、どこにあるの?」と聞き返した。

「その水は、この山を越えた所に、青い泉があってね、そこの湧き水なのよ」 
アイは拍子抜けするほど簡単に語り、さらに話してくる。

「だけどね、その命の水を持ち帰ってくるには、5つの欲に耐えなければならないのよ。ジュンは絶対に耐えられるわよね」  

アイは、ジュンが果たして持ち帰ることができるかなあというような表情をしている。
アイから何か試されているような雰囲気を感じ、ジュンは聞き返す。
「耐えなければならない5つの欲って、何なの?」

するとアイは、ジュンの目をじっと見つめて、懇願するような顔付きとなり告げる。

「5つの欲ってね・・・色欲・飲食欲・財欲・名誉欲・睡眠欲よ」