男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず)
乙女はジュンの優しい気遣いの甲斐あってか、気を取り戻した。
「あっ、そうだわ、私、思い出したわ、
そうそう、私、馬に乗ってこの森に狩に来たのよ、そして水を飲むためにここへ来たのだわ。
そしたら、この泉の妖気に当てられたのか、馬が突然怖がってしまってね、それで私、落馬してしまったの」
乙女は一つ一つ記憶を取り戻すかのように呟く。
「怪我は、ないよね?」
ジュンは落馬と聞き、急にその乙女の身が心配になり問い返した。
それに応えて、乙女はニコッと笑い返す。
そしてびっくりするようなことをさらっと言うではないか。
「大丈夫よ、だけど馬も逃げてしまったし、これからどうしようかしら・・・・・・
お城に帰れないわ」
「お城?」
ジュンは乙女の口から飛び出した「お城」と言う言葉に仰天した。
そんな驚くジュンをからかうように、乙女は躊躇なく名を名乗る。
「はい、私は・・・アイだよ」
そして、何事もなかったように澄ましている。
これを聞いたジュンは、直ぐに言葉が出てこない。
しばらく頭の中を整理し、戸惑いながらも尋ねてみる。
「あなた、ひょっとして・・・・・・お姫様?」
「そうですよ」
お姫様アイは軽く返してきた。
作品名:男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず) 作家名:鮎風 遊