男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず)
「お嬢さん、どうされましたか? しっかりして下さい」
ジュンは、なにか大事な宝物を見つけた時のように、少し声を震わせながら恐る恐る声を掛けてみた。
そして、出来るだけ優しく揺すってみる。
しかし、動かない。
どうも乙女は気を失ってしまっているようだ。
ジュンは乙女のことが心配で、咄嗟に泉の冷たい水を口に含んだ。
そして、その乙女にそっと口づけし、水を口に含ませてやった。
乙女は水の冷たさを感じたのか、気が付き、はっと目を見開いた。
そして、いきなり目の前に好青年がいるのを知り驚く。
「えっ、私、どうしたのかしら?」
乙女は、ジュンに抱かれたまま、じっとジュンの目を見つめてくる。
ジュンはそんな乙女からそっと腕をほどく。
「俺、ジュンと言うんだよ、この森の木こりだけど・・・・・・
あなたがここで気を失っていたから、気付けにと、口移しで水を飲ませて上げただけだよ・・・・・・ゴメンなさい」
ジュンはこんな若くて美しい女性に、勝手に口づけをしてしまったことを反省し謝った。
「そうなの・・・・・・気を取り戻させてくれて、ありがとう」
乙女はジュンの予想に反し、笑みを湛えながら礼を言ってきた。
ジュンはこの言葉を聞いて、ほっと一安心。
そして、自分なりの精一杯の元気付けを乙女にする。
「さっ、もう大丈夫だよ。その美しさを台無しにしないように、気をしっかり持って下さいね」
作品名:男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず) 作家名:鮎風 遊