男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず)
ジュンは泉のほとりで睡魔に襲われ、その睡眠欲に負けてしまった。
そして、そのまま永遠の眠りについた。
森の静かな時間が流れ、イケナイお姫様のアイが馬に乗って現れた。
アイは泉のほとりで倒れているジュンを見つける。
そして馬から下りて、走り寄っていく。
アイは思い切りジュンを揺すってみるが、動かない。
時はすでに遅かった。
ジュンはもう息を引き取ってしまっている。
しかし、アイは冷静だった。
ジュンの懐から、変若水の入った竹筒を取り出した。
そして無言のまま、ゴクリゴクリと飲み干す。
それからアイは、横たわるジュンに向かって、ぽつりぽつりと話し出す。
「ジュン、感謝するわ、命の変若水(おちみず)、早速頂いたよ。
あなたほど私のために頑張ってくれた男、初めてだったよ。
そのお陰で、私は艶(つや)やかで美しいお肌を手に入れたわ、永遠に若々しい命が私に宿ったのよ。
だけど私・・・なぜか寂しくって、悲しいの」
こんなことをアイは呟きながら、涙を泉の如く溢れさせ始めた。
「あらっ、こんなに涙が出て来るなんて、ホント子供のようで、不思議だわ。
これって変若水のせいなのかしら?」
アイの涙が止まらない。
アイはそんな自分の泣き顔を水面に映してみる。
アイの哀切さが水面(みなも)に描写される。
泉の小さな波に揺れ、美しい。
そんな時に、アイの大きな一粒の涙が・・・。
ぽつりと泉の水面へと落ちた。
そしてそれを起点として、丸い波紋がゆらりゆらりと。
水面にあるアイの顔を崩しながら、輪となり広がっていく。
まさにその瞬間のことだった。
不思議なことが起こった。
この森の泉が見る見るうちに青色に変わっていく。
「あららららっ、この森の泉が・・・・・・変若水(おちみず)の泉になっていくわ」
そう、ジュンが山を越え、持ち帰ってきた命の若返りの水。
アイはそれを飲んだ。
そしてアイは、眠りながら逝ってしまったジュンを悲しみ、一粒の大きな涙を森の泉に落とした。
このたった一粒のアイの涙。
これにより、この森の泉は、変若水を湛える青い泉へと変わったのだ。
作品名:男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず) 作家名:鮎風 遊