男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず)
確かに誘惑の多い旅だった。
それでもジュンは山を越えた。
そして、その三日後に、やっと変若水(おちみず)の泉に辿り着いた。
泉は実に青く澄んでいる。
泉を囲む木々、そして草花までもが青々しく見える。
シーンと静まりかえり、妖精達が水浴をするような神秘さが漂っている。
ジュンはこんな泉を今まで見たことがない。
そんな衝撃が収まるのを待って、そっと手で水をすくってみた。
そして口に含んでみる。
無味ではあるが、しかしよく味わえば、少し甘みもある。
こんな命の水、ジュンはやっと手に入れた。
そしてその喜びで、胸を高鳴らせる。
「ジュンが男として、これらの5つの欲に耐えて、私のために変若水(おちみず)を持ち帰ってくれれば、私はいつまでも肌も瑞々しく、若くあれるし・・・。
私、ずっとジュンのそばにいて、毎晩・・・・・・もっともっと愛して上げてもいいわ」
アイは確かにそう言った。
そしてさらに、
「私はお城のイケナイお姫様だから、変若水を見事持ち帰ってきてくれたら、5つの欲、すなわち色欲・飲食欲・財欲・名誉欲・睡眠欲を、全部満たしてあげるわ」
アイはこう約束してくれた。
ジュンは、この水さえ持って帰れば、アイと夫婦になれる。
そして男として、すべての欲を満足させることができると信じ込んでいる。
ここまで来る道中、いろんな誘いがあり、意志がぐらついたりもした。
しかし今ジュンにとっては、そんな誘惑は、これからアイと一緒になれることに比べれば大した話しではない。
「さっ、もう一踏ん張りだ。アイに命の若返りの水、
変若水をいっぱい持って帰ってやろう ~らんらんらん♪」
ジュンは鼻歌混じりで独り言を吐きながら、竹筒に溢れるばかりの水を注ぎ入れた。
そして、それを懐深くに仕舞い込んで、来た道を引き返して行くのだった。
作品名:男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず) 作家名:鮎風 遊