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男と女のファンタジー 『変若水』 (おちみず)

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「お兄ちゃん、ようここまで来てくだはった。残念ながらここには色はない、その代わりに、この部屋にあるように山ほどの宝物がある。

お兄ちゃんが夢に見た金銀財宝、一攫千金でっせ、これらを全部お兄ちゃんに上げまひょ・・・・・・だからここでずっと住みなはれ」

ジュンはこんな誘いに、一瞬グラッときた。
確かにこれだけの財宝があれば、辛い木こりの仕事を止めて、一生遊んで暮らせる。
このままここに居付いても良いかなあと思った。

しかし、アイと交わした男女の約束がある。
こんな金銀財宝に惑わされている場合じゃない。

「俺はアイのために、この山を越えて、青い泉に行かなければならない」

ジュンは、自分が果たすべき使命を思い出した。 
そして、自分の迷いを振り切るように、その屋敷を飛び出した。

ジュンはしばらく走り、そして立ち止まった。
足下に小判の形をした瀬戸物の瓦礫が転がっている。

ジュンはそれを一つ一つ拾い上げて見てみると、そのそれぞれに戒名が刻まれている。

多分オヤジの口車に乗って、その家に住み着いて、
最終的にあのオヤジに、内蔵を売り飛ばされた男達の後悔至極の戒名なのだろう。

ジュンはそんなことを思いながら振り返ってみた。
すると大きな古狸(ふるだぬき)が、瀬戸物の瓦礫の山の上で、怒りの形相をして、ポンポコポンポコと腹鼓(はらつづみ)を打っている。

「ああ財欲を乗り越えて、俺の内蔵はまだ健在か・・・・・・良かったなあ」
ジュンはほっと一安心する。

そして、もう振り返ることもなく、山の麓から黙々と山を登り始めるのだった。