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舞うが如く 第七章 7~9

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 まゆの選別技術をマスターしてくると、
誰もが、繰糸場に行きたいと思うようになり始めます。
ある日、高木さんに、
「いつ繰糸場に行けるか」と工女たちが尋ねました。
その答えは



「3月20日ごろに、
 山口県から新入者が40名くらい入場して来るから、
 そのときに(繰糸場へ)出してあげる」


と応えて、一同がおおいに喜びます。
毎日、気合を入れて選別作業にいそしみながら、
前橋からの新人20人は、その日が来るのを待ち続けます。



 待ちに待った3月20日のことです。


 山口県からの40人が、富岡製糸場へ来場をしました。
山口県の娘達は、明治維新の中心となって活躍した長州藩士出身にふさわしい
雰囲気を、いかにもというようにその全身に備えていました。
身につけた衣服はもちろん、その立ち振る舞いにさえも、
ほどよく洗練されたものがありました。



 これを見た前橋の工女たちは、
いよいよ明日からは、繰糸場に行けるとおおいに喜び合いました。
新しい手拭いなども準備して、その身支度を怠りません。
翌朝、期待に胸をふくらませて、まゆの選別場に行きましたが、
昼になっても、なんの示達がありません。



 そればかりか、
ガラス窓をとおして見える繰糸場のなかでは、
来たばかりの山口県の娘達が、
器械の前で糸繰りの指導を受けているのが見えました。
余りの光景に、前橋の工女たちが愕然とします。


 しかし、まゆ選別場のなかには、
前橋以外の工女達もたくさん居ますので、
ここでめそめそ泣くわけにはいきません。
しかし、20人が打ち揃ってなんとも落胆し、
悔し涙ばかりが流れる午前中のあり様になってしまいました。