ゆびきり
「お子さんは?」
「なしで正解でしたね。カミサンに子供を置き去りにされて逃げられたら、悲惨でしたね」
「わたしも、こどもは居ないから……梅キューとフライドポテト。どうぞ」
いつ来たのか、中野は気付かなかった。ビールのせいだけではなく頭がぼおっとしている。周囲の騒音が一段と増したような気もする。
「子供がいると経済的にきつくなりますね。普通の会社勤めをしていた頃、勤め先にもうすぐ六十歳で、子供の大学のために年収の倍も借金をしている人がいて、いつもそのことをぼやいてましたね。菜奈さんも、冷めないうちにどうぞ」
「じゃあ、頂きます……あっ、おいしい!こんなにおいしいの初めて」
菜奈がフライドポテトを口に入れたとき、中野は彼女の舌が素晴らしく鮮やかな赤い色なので驚かされた。中野は鮪の刺身を連想し、ちょうど近くに居た従業員に注文を追加した。
「お刺身、食べたかったの。なぜ解ったんですか?」
「半年もメールのやり取りをして、そのくらいは解りますよ」
菜奈は、はっとしたような表情を見せてから笑った。
「話が戻りますけど温泉、わたしも大好き。スノボのあとは絶対天然温泉です。そういうところしか行きません」