ゆびきり
「禁煙席で良かったんですよね?」
「はい。メニューを見ましょうか……ところで、中野さんはずっと独身なんですか?」
「バツいちです……これと、これを注文します……メールで伝えてありませんか?」
中野はサイコロステーキと、梅キューに決めた。
「ええ。奥様と同居だったら嫌だなと思ってました……わたしは、この小さいお握りと、これ……聞くのが怖かったんです」
菜奈が指差したのはフライドチキンだった。
「菜奈さんもバツいちなんですね」
「別れたのは、三年前です」
そう云う菜奈の表情は暗くない。もはや遠く過ぎ去って風化した過去となっている。何も引きずってはいないということを、強調するためにその表情を保とうとしているのだろうか。
だが、突如彼女の表情が陰りを帯びた。そして、何か云ったようだが、その声を隣の席の四人の爆笑がかき消した。勤め先が同じらしい中年の女一人と男三人。上司らしき人物の悪口を云い合っている。