ゆびきり
駅ビルにも居酒屋があることは知っていたが、ぐるっと歩いてみると店舗数は想像以上だった。満席の店が多く、最後にやっと入ることができた。
全体に照明を抑えめにしている店だが、各テーブルには明るいスポットライトが当たっている。
角の席に入った菜奈は、さりげなく中野の傘を受け取った。気がついたときにはそれを彼女が持っていたという印象だ。
中野は改めて菜奈を見た。どちらかと云うと美人だが、親しみ易い顔立ちで、綺麗な眼をしている。そして、色白である。
「予約しておくのが常識なんですね。何年もこういうところには来ていないので、済みません」
中野は大声でそう云った。隣の席が近く、異常に思える程盛り上がって騒々しい。
「わたしも同じです。先に飲み物を注文するんですね」
間もなく生ビールの中ジョッキを二つ、注文した。若い男の従業員はお通しの小鉢を置いて行った。