ゆびきり
その爽やかな明るい声を耳にすると、彼も思わず笑顔になった。
「逢えましたね。夢を見ているような気がします」
「嬉しいわ。こういうのって、初めて」
「こちらも初めてですよ……理想の女性と出会ってしまいました」
鈴木菜奈は、うふふ、と笑いながら先に歩きだした。
「ぼくはね、こんなこと平気で云う奴じゃないんです。なぜか……」
それを遮って若い女性は俄かに心配顔で云う。
「髪が、黒くないって、思ったでしょう」
「そうでしたね。黒髪でロングということでしたよね。でもこのくらいなら
染めるのも悪くないなって、思いました」
「身長も嘘よ。本当は百六十三です。コンプレックスなの」
「たった三センチじゃないですか。スタイルが抜群ですね。まるでファッションモデルです」
停止していたエレベーターの中に、中野は夢見心地で入った。
「名前も嘘。鈴木じゃなくて、野口なんですよ。野口菜奈が本当の名前。マナーモードさんは?」
「中野です。中野サンプラザのあの中野、中野清です。よろしくお願いします」