ゆびきり
「今日は愉しかったです。次は来週?」
菜奈は泣きそうな表情である。
「明日も逢いたいけど、無理らしいから来週ですね」
菜奈は中野と向き合うと右手を差し出した。一瞬、また指切りをしたいと云うかと中野は思ったが、握手を求められていることが判ってそれに応じた。
菜奈は強く手を握り、ずっと泣きそうな顔で中野の眼を見ている。
「もう逢えないような気がして辛いわ」
「予定を確認して、来週逢おう」
「わたし、来週はいろいろあるけど、キャンセルするね」
「小説。読んで貰うことになっていたよね。メアド教えて」
サイトメールでは百字しか送れないのである。携帯小説でも五千字なので、それを一気に送信するためにはメール・アドレスはどうしても必要なのだった。
連絡用の通常のメールでも、十通送信するための費用は三千円以上なので、今メール・アドレスを入手できるかどうかが、今日逢ったことの意味を大きく左右することにもなる。
「もう行かないと、モモちゃん捨てられちゃう。来週逢ったとき、必ず教えるから。ごめんなさい」