ゆびきり
中野も右手を出して応じた。昨夜は左手だったのを思い出した。昨夜の、可奈という女性の方が指が長くて細かったような気がする。しかし、今夜の方が明らかに嬉しい。本当に、もう一度菜奈に逢いたいと、彼は思っている。隣の席の四人が急に黙って好奇の目で見ているのが判ったが、中野と菜奈は指切りをし、凝視め合ったまま微笑んでいる。
「今すぐとか、あと三分とかで帰りますか?刺身も来たばかりだし、熱燗を少しのみたいかな、なんて……」
中野がそう云っている間に指はほどかれた。
「じゃあ、一本だけ。あっ、最初に注文したのに、お握りがまだね」
「そうだ、それを催促しよう」
そう云っていると間もなく、お握りが来たので熱燗を注文した。どこかで一気のみの掛け声が始まって更に騒々しくなった。隣の席の四人も再び大声で喋っている。
「再婚をする気はあるんですよね」
「あります。中野さんは?」
「もう、いいかな、と思っていたけれど、菜奈さんと一緒に暮らしてみたいなあと、今は思ってます。如何でしょうか」
菜奈は少し疲れたような表情になった。