ゆびきり
「酒豪でね。菜奈さんもかなりのむ方ですか?」
刺身の盛り合わせが来た。最初に注文しなかったことを後悔するほど豪華だ。
「これ一杯で終わりです。清さんは?」
「せいぜいもう一杯で限度。刺身のあとはどうしようかな」
「わたし、そろそろ失礼します」
中野は大きな衝撃を受けた。
「もうですか?」
「ごめんなさい。友だちに預けている飼い猫を、引き取りに行くんです」
「どこかへ旅行していたんですか?モモちゃんでしたね」
菜奈は非常に困惑している様子だ。
「そうです。でも、また逢ってください。これでおしまいなんて、絶対いや。また誘って。だから、指切り……」
泣きそうな顔の菜奈は右手を延ばして来た。中野は驚いていた。昨夜は乗客と指切りをしたのだった。どこかわからない大会社で社長秘書をしているというその美女は、中野が書いたメール小説を読みたいと云い、メールアドレスを手帳に記入して中野に手渡したのである。そして、必ず送信してほしいと云ったあと、指切りをさせられたのだった。
「……そうだね。また逢いたいよね」