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ゆびきり

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 菜奈の笑顔は非の打ちどころがないと、中野は思う。こんなに可愛い笑顔は
どこへ行っても見たことがない。菜奈の表情は映画女優の笑顔が歴然と作りものだったことを教えてくれたような気がする。
「中野さんも笑ってばかり。わたしの顔ってそんなに笑えます?」
「だって、眼も耳もふたつなのに、鼻と口はひとつって、不公平。何云ってるんだろう。大分酔ってますね。徹夜明けのときは酔うのが早いんです」
「わたしも、もう酔ってるみたいです。そうよ、不公平なことばかりね……ところで、わたしは夫の借金が減らないから別れたんです。中野さんはなぜ奥様と別れたんですか?」
 菜奈は真剣な表情になった。色白なのだが、とりわけ眉間が白い。
「暴力です。詳しくは云いたくない。悪口ですからね。愚痴を云うことにもなるしね」
 菜奈は必死に考えている様子である。
「家事をちゃんとやらないから夫が文句を云うわけですね。すると腹いせに妻は暴力をふるう。物を投げたり、刃物も?……」
「メールで教えた?包丁を振り回したり、火がついたガスストーブを投げられたり……」
「苦労しましたね……お金を要求するのよね、結局」
 菜奈の表情は今度は哀しい気持ちを表していた。
作品名:ゆびきり 作家名:マナーモード