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僕の村は釣り日和7~消えたメダカ

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 その淵は魚の、生命の気配に満ちていた。複雑な流れが作り出す水の筋は、所によっては激流のようになり、所によっては底の石により、水が盛り上がっている。また、ある所では水は巻き返し、緩やかな流れとなって、落ち着きながらも、すべてを飲み込もうとしている。
 僕たちは思い思いの場所に、仕掛けを、ルアーを投げていく。三人が解け合った淵だった。
 しかし、不思議だった。そこの淵はいくらルアーを投げても魚の反応がない。正確に言うと、魚が追ってくるのは見えるのだが、食いつかないのである。東海林君も苦戦しているようだ。皆瀬さんも丹念に仕掛けを流しているが、アタリはないようである。
「どうやら、ここの魚はスレッカラシ(釣れない魚)のようだね」
 皆瀬さんが苦笑した。さすがの餌釣り師も音を上げたようだ。
「どうやら、そうみたいですね」
 ヒョイと東海林君がルアーを回収した。
 考えてみれば、ここまでも絵に書いたような、教科書どおりのポイントからは、あまり魚の反応は良くなかった。どちらかというと「竿抜け」と呼ばれる、人が見落としがちなな小さなポイントを拾い歩いて釣ってきたのだ。それだけ笹熊川の魚は攻められ、スレているということになる。
「さてと、ここからどうしようか? このまま笹熊川の本流を釣るというのもいいし、支流の鬼女沢に行くのもいい」
 東海林君と僕はまた顔を見合わせた。迷っている僕たちを見て皆瀬さんは言った。
「笹熊川の本流は漁協が放流しているから魚も多いけど、その分、釣り人も多くて魚もスレている。一方、鬼女沢は放流されていないけど、種沢なんだよ」
「タネザワ?」
 僕は初めて聞くその言葉の意味がわからなかった。
「つまり、天然の魚が昔ながらの生命の営みを続けている沢なんだ。結構、鬼女沢からこの笹熊川に下ってくる魚も多いと聞いている。漁協の放流だけじゃあ、やっぱり限界があるからね。その代わり、鬼女沢で釣るならば、リリース(放流)を前提として考えてほしいな。貴重な種沢を荒らしたくないんでね」
「うーん、どうしようかな?」
 東海林君と僕とで考えあぐねていると、急にガサガサという音がした。音のする方を見ると、鬼女沢の入り口にあのモヒカン頭をした猿がいた。
 クワン!
 猿が吠えた。そして、僕たちに背を向けると、ゆっくり歩きだしたのである。
「鬼女沢へ行こう。あの猿を追うんだ」