運動場(1/26編集)
夕暮れの薄暗さは上手に影を写し取って、広い運動場を伸びていく。黄昏月が夕焼けの鮮やかな光に紛れて、おぼろ気に光を帯びて輝いている。
運動場は幸い片付けが終わった頃で、倉庫の方と旗標台の方にちらほらと人の影らしきものが確認できるのみで、要の所にはなんの気配も見当たらなかった。それどころか、本来の目的の彼女さえも居ないように思った。
というか、彼女をいつも見かけるのは午後の授業の時くらいで、この時間帯にいるかなんて考えたことも無い。
……なんとなく悪い予感がして、タイヤが無造作に積まれた其処まで走っていく。こっちのネガティブな予想なんてお構いなしに、一番高く積み上げられている黒いゴムの隣の、こぢんまりとした空間からじっと空を眺めている横顔を見つけた。
先ほど一瞬襲った思考は、どうやら杞憂だったみたいだ。すぐにこっちの気配に気づいてこっちを向いた少女は、俺の姿を確認して、大きな目をぱちくりとさせる。とても驚いたようだった。けれど、なんとなく事態を受け入れているような気はした。
「やっと会えた」
最初は会う気なんて全然無かったし、こっちから押し掛けておいての言う言葉ではないだろうとも思った。
でもあの時は、確かにそう思ったのだ。まるで映画のキャッチコピーのような――初めから俺達は巡り会うようにこの世の中は出来ているんだ、よ。
夜の迫ってきた薄い暗闇の中で、にっこり笑った小さな顔がいやに印象的だった。
作品名:運動場(1/26編集) 作家名:狂言巡