夏色のひみつ
佐藤さん
海からの帰り道、一台の車が追い越しざまにわたしたちのそばで止まった。
「ずいぶん焼けたね」
車の中から声をかけてきたのは、眼鏡をかけたちょっと太めの男のひとだ。でも、笑顔がさわやかな感じ。
「あ、佐藤さん。こんにちは。お仕事ですか?」
ふたりが同時に言ったのが、あまりにも息があってて、なんだかおかしかった。
「うん。川の汚れを見てきた。こう暑いと臭くてね」
佐藤さんはうんざりだというふうに言った。
「あ、ねえ佐藤さん。この子、夏海さんの姪っ子のまゆちゃん」
突然紹介されて、わたしも戸惑ったけど、佐藤さんもすごく慌てたみたい。盛んに汗をふきながら、ばかていねいに挨拶した。
「ああ、どうも。いつも夏海さんにはお世話になっています」
「あ、あの、こちらこそ、よろしくお願いします」
何が何だかわからないうちに、挨拶だけはしたけど、あたふたと佐藤さんが行ってしまうと、ふたりはけらけら笑い出した。
「やっぱり、本物だね」
「うんうん。絶対」
顔を見合わせては笑っている。
「なあに? 今のひとだれ?」
「総合学習の時に来てくれてるもうひとりの人。環境課の佐藤さん」
ゆきちゃんは笑いながら言った。
「それがねえ、どうも夏海さんに気があるみたいなんだ」
なみちゃんもまだ笑っている。
「そうなの?」
言われてみれば、ふたりが笑うあのあわてぶりが、それを証明しているみたいで、わたしまでおかしくなった。
「でさ、まゆちゃんはどう思う?」
急に真顔になったなみちゃんが言った。
「え、どうっていわれても……。感じの悪い人じゃないよね」
と答えたけど、どうやらふたりはあの佐藤さんとなっちゃんをくっつけようとしているみたい。わたしの返事に満足してやけににやにやしている。
「そう、よかった。まゆちゃんが一肌脱いでくれればうまくいくわ。たのんだわよ」
ほらやっぱり。