夏色のひみつ
お母さんはもう何日かしたら、向こうのおばあちゃんを連れて東京に帰るという。
幸い向こうのおばあちゃんも動けるようになったので、いっしょに暮らすと言ってくれたそうだ。
わたしはせっかくだから、夏休み中いなかにいることにした。
ゆきちゃんやなみちゃんと思い切り海で泳いで、遊んで、楽しい思い出を作った。
そしてそれは、ほんとうのお母さんとすごした最初で最後の夏休みになった。
地引網をして、その場で浜鍋を作って食べたり、お盆には港で開かれた盆踊り大会にもいった。わたあめを食べながら、花火も見た。
それもこれもみんな、なっちゃんといっしょだった。
その秋、なっちゃんは結婚した。世界一幸せそうな花嫁さんだった。
そうして、また夏休みがやってきた。
わたしは今年も東京駅から一人で特急にのっていなかに向かう。
「もう、ちゃんとお手伝いするのよ。遊んでばかりいちゃダメよ。お母さんはお盆にいくから」
ホームでお母さんが、くどくどと注意する。
「わかってるってば。もう五年生なんだから、去年より役に立つわよ」
海辺の町に向かって特急は走り出した。九つのトンネルを越えたらわたしは降りる。
なっちゃんはこの前、男の子を生んだ。送られてきた写真を見たら、こがね丸そっくりだった。
「まっててね。今、お姉ちゃんが行くからね」
弟の写真にわたしはキスをした。