夏色のひみつ
なっちゃんの友だちの先生に会うにしても、何を質問したらいいのかしら。気になるからついゆきちゃんとなみちゃんにたのんじゃったけど……。
その晩、とうとうこがね丸は姿を現わさなかった。
次の日。朝ご飯のあと。おばあちゃんはまだわたしに寝ているようにいって、裏山の畑に行った。おじいちゃんは網を繕うのに浜の小屋に行った。
「まゆ。つまらなかったら、わたしの部屋にある本でも読んでたら? 文学全集もあるのよ」
出勤前になっちゃんがそういってくれたとき、わたしはいけないことを思いついた。そうして誰もいなくなると、わたしはなっちゃんの部屋に入った。
三度目にはいるなっちゃんの部屋。八畳の和室は本でいっぱいだ。
ふすまを開けると目に飛び込んでくるのは窓にむいておいてあるふたつの机、ひとつにはパソコンがのっている。ひとつは書き物をするのに使っている。
そのわきにはベッドがある。そうして壁全体に本棚があって、机のわきにも本が積んである。
古い本がたくさんある。文学全集は入口に近いところに分類されてあって、小学生むけのもちゃんとあった。わたしはまず、その棚から面白そうな本を二冊取り出した。それからもう一度、部屋の中をぐるっと見回した。
「入ってもいいっていったくらいだから、なにもあやしいものはないわよね。なっちゃんの部屋って、色気ないわ」
少しがっかりして部屋を出ようとしたとき、なんともいえない感覚がわたしの背中に走った。
だれかいる!
おそるおそるふり返ると、部屋の隅っこの一番薄暗いところに、ぼんやりとしたかげのような姿のこがね丸が、泣きながらたっていた。
「やだ。おどかさないでよ。幽霊だと思ったじゃない」
「ごめん、でも、ぼくはお化けなんだけど……」
「あのねぇ、そんな泣きっ面でヘンなシャレ言わないで。それに夜しか姿を見せられないって言ったくせにどうして昨日来なかったの? 聞きたいことがいっぱいあるのに」
こがね丸は顔をくしゃくしゃにして、ぼそぼそ話し出した。
「ごめんよ。夕べは仲間のお弔いだったんだ」
「なにそれ」
「お葬式のことだよ。昨日、鎮守の森の大きな楠が倒されたんだ。それでじいさんが死んだんだよ」
「じいさんって、楠の精?」
「ああ、昔は鎮守の森だ、ご神体だって、お酒をまいたりお供えをしたくせに、マンションを建てるんだとかっていって、みんな切っちゃったんだ」
こがね丸はこぶしを振るわせている。わたしは何も言えなかった。
「勝手だよ。人間は。神様にしたりゴミにしたりしてさ」
こがね丸の口調が強くなった。そのとたん、少し強い風が吹き込んできた。
「自分達の都合で妖怪を作って怖がったりしたくせに、すぐに忘れる。勝手に作られたぼくらはどうすればいいのさ」
風は小さな竜巻になって部屋の中で渦巻き、積んであった本や資料が舞い散った。
「やめて! こがね丸。おちついて。やめてったら!」
わたしは必死で叫んだ。
静かになった部屋は本や紙が散らかってひどいありさまだった。こがね丸の姿は消えていた。
「なっちゃんに叱られちゃう」
わたしはどうしていいかわからないまま、片づけ始めた。
「どうしよう。ちゃんと整理してあったのに。どれがどれかわからない……」
わたしは泣きたくなった。それでも、なっちゃんが帰ってくる前になんとかしなければ、と必死になった。
「えっと、とにかく、あとで分類するとしても、資料はひとまず集めておかなくちゃ」
と、バラバラな紙を寄せ集め、本は同じ表紙のものをいっしょにしていった。
その時だった。日記帳のような古い本を手にしたとき、ひらっと紙がおちた。