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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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夏色のひみつ

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こがね丸



 明け方、一番鶏の声で目が覚めると、頭痛も熱もだいぶおさまっていた。何気なく足下の方に目をやると、あの白装束の男の子がいた。
「きゃっ。びっくりさせないでよ」
 飛び起きようにも、体が重く感じてうまく身動きできない。まだ薄暗いので電気をつけようとしたらとめられた。
「まって、明るくしないで」
 わたしは仕方なくいうことを聞いた。常夜灯だけの明るさじゃ、いくぶん気味が悪いけど、たしかに、明るくしたらあかりが漏れて、だれかにみつかっちゃうし。
「まったく、どういうことなの。失礼よ。女の子の部屋に忍び込んでくるなんて」
「ごめん。君とゆっくり話がしたかったから。ぼくを助けてほしくて」
 なんだか悲しそうだ。
「ね、あんた、金の字小僧っていうんでしょ」
 すると、その子は不満そうに答えた。
「うん。その呼ばれ方は好きじゃないけど、ぼくが生まれたのは、埋蔵金の伝説のせいだから、そういうことになる」
「ふうん。じゃあお金の精なんだ」
「ねえ、話の前にぼくに名前をつけてよ。かっこいいやつ」
 わたしは内心、おばけのくせに生意気なやつだと思ったけど、口には出さないでいた。
「うーんと、じゃあ、お金の精だから、お金丸!」
 そしたら、金の字小僧はすごい不機嫌な顔つきになって、文句を言った。
「君ってボキャブラリーが貧困なんだね」
「あら、むかしのおばけのくせに横文字知ってるの?」
 わたしが皮肉っぽくいうと、金の字小僧も負けてはいない。
「いちおう、何百年も存在してるからね。いろんなこと覚えたよ」
だって。
「だったら、自分の名前くらい自分でつけなさいよ」
 わたしはむっとして、ちょっと強い口調で言った。すると金の字小僧はしゅんとして、口をとがらした。
「だって、ぼくにはそんなことできないさ。ぼくは人間の意識の中から生まれたものなんだもの」
「そんなもんなの?」
「うん。それにこの世の中のものは、みんな人間が名前をつけるようになっているじゃないか」
「そういえば、そうだよね」
 わたしはちょっぴり同情して、何かいい名前はないか考えた。すると、ここに来た日におばあちゃんたちといっしょに食べたあげせんべいのことが思い浮かんだ。
(あれは、たしか……こがねあげだったっけ)
「そうだわ、こがね丸。こがね丸でどう?」
「うん。いい名前だ。気に入ったよ。ありがとう」
 まさか、おせんべいの名前でこんなに喜ぶとは思わなかったから、なんだか後ろめたい気がするけど、わたしだって「金の字小僧」って呼ぶよりは「こがね丸」のほうが呼びやすい。まあ、いいか。
 わたしはまだ起きているのがつらいので、横になった。こがね丸はわたしのわきに正座して話し始めた。
作品名:夏色のひみつ 作家名:せき あゆみ