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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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夏色のひみつ

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初めての田舎



 ガタンガタン、ゴゴーッ!
 電車は最後のトンネルに入った。トンネルを抜けるとすぐにわたしの降りる駅だ。
 東京から特急電車で一時間半。お母さんの生まれた町に、わたしはこの夏初めてひとりでやってきた。
 お父さんに転勤が多くて、あっちこっちを転々としていたせいもあって、お母さんのいなかには、うんと小さいときに行ったきりだった。
 でも、三年生のとき、お父さんが単身赴任になって、わたしたちが東京で暮らすようになっても、お母さんはいなかに行きたがらなかった。東京駅から特急に乗れば、簡単に行けるところだというのに。
 なのにこの夏、わたしがひとりでいなかに行くことになったのはわけがある。
 この春からお父さんのいなかのおばあちゃんの具合が悪くなった。ひとり暮らしで心配だから、東京にきていっしょに住むように勧めたのに、いやだと言って聞かない。
 そしたら夏休みの少し前に倒れて救急車で運ばれたという連絡が、おばあちゃんの近所の人からあった。
 それで、お母さんが看病のためにそっちの方に行くことになったから。
 ここ数年、電話でしか話さなかったいなかのおじいちゃんとおばあちゃんにあえるのがうれしくて、わたしは夏休みが始まった日、すぐに電車に乗り込んだ。

 向かっているのは海辺の町だというのに、近づくほどに山が多くなってトンネルが増える。わたしはその数をいちいち数えていた。一つ抜けるたび、山陰に海が見えてくる。
『いいわね。トンネルは九つよ。最後のトンネルを抜けたら、すぐに駅だから、忘れ物しないようにね』
 ホームでしつこく言ってたお母さんの顔を思い出して、ポケットに入れておいた切符を手に持った。荷物っていったって、お財布とハンカチ、ティッシュの入ったポシェットだけ。それもしっかり肩からかけているから、わすれようもない。
 そうして最後の長いトンネルを抜けると、電車は減速して、アナウンスが入った。
「片浦〜 片浦〜 片浦に到着です。お忘れもの……」
 電車から降りると、少し涼しい風が吹いてきた。やっぱり海の匂いがする。
 同時におりた観光客の人波にながされて、改札口をでると、
「まゆ。まゆでしょ?」
と、いう声がした。その声の方を見ると、すらりと背の高い女の人がいた。
作品名:夏色のひみつ 作家名:せき あゆみ