森と少女~forest
オープニング
ピアノの前にいるアリス。ウサギのぬいぐるみを見て、溜息をつく。ドアの方を見る。
アリス「外の世界、か」
小さく呟いて、ドアの方へ移動。恐る恐るドアの前に立って、ゆっくりとドアに手を伸ばす。何度か手を伸ばし、引っ込めるの繰り返し。何度目かでようやくドアに触れることができる。
ドアに触れると、しばらくそのまま硬直。
何度か深呼吸を繰り返し、意を決したように力を込めて、
アリス「……だめっ」
悲鳴を上げるように。弾かれるようにドアから離れるアリス。結局ドアは開けられない。アリスの方を向いているウサギのぬいぐるみの方まで少し歩いていき、申し訳なさそうに俯いて。
アリス「だって怖いんだもの。外の世界には、何があるかわからないのに。もしかしたら、とっても怖いところかもしれない」
ウサギから視線を逸らして独り言。
アリス「きっと私なんて誰にも仲良くしてもらえない……怖いことがたくさんあって、一人ぼっちで、誰も助けてくれる人なんていない」
ウサギのぬいぐるみに言い訳するように。最初は少し大きかった声が、だんだん小さくなっていき、最後にはほとんど独り言のように小さく、
アリス「……怖いんだもの」
呟いて、俯く。ウサギのぬいぐるみに視線を向けて笑う。
アリス「あなたが、私をどこかに連れて行ってくれればいいのにね。ここじゃないどこか、怖いことなんか何もない、みんな優しくしてくれる世界に」
笑顔のまましばらく沈黙。すぐに暗い表情に戻って、ウサギから視線を外し、
アリス「……そんなこと、あるわけないか」
ウサギのぬいぐるみに焦点が移る。暗転。
作品名:森と少女~forest 作家名:名寄椋司