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In der Stadt von einer stillen

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どこかで聞き覚えのある威圧的な男の声に、一同が炎の渦に目を見張った。
「空間移転の印…、フォーカード…!!」
「フォーカード…?」
シウアが忌々しげにその名を呟いたのを俺は聞き逃さなかった。その声も名も、確かに聞いたことがあるのに、いつそれを見知ったのか、その時はまだ思い出せなかった。
「フォーカードって、留衣ちゃんの…!?」
エルファがハッとしてシウアの方を見た。留衣・フォーカード、確かに彼女はそう名乗り、幼い頃に引き取られたと言っていた。だが、この男のものであろう過去の映像は、ノイズが酷くて何一つ読み取れなかった。だが、俺はそれ以外にもこの男を知っている気がする…。
「やはり、この子には貴方が絡んでいたのですね、フォーカード」
「…フン、久しいな、シウア・ラグズ。その女を渡せ。それは俺のモノだ」
狐色の金髪と青眼に眼鏡の男、フォーカードとシウアは見知ったように言葉を交わした。
先ほど留衣の名を聞いてシウアが何か思い詰めていた理由がわかった。普段から彼の過去を見、知り尽くしているはずの自分が、フォーカードの存在をどことなく知っていてもおかしくはない。
「まだ彼女に強制契約を行使するような真似を…」
「自分のモノを好きに使って何が悪い」
シウアの憤りが、どうやら彼女がまともな人間に引き取られたわけではないことを物語っていた。むしろ、この男が彼女を人間として扱っているかどうかも怪しい。フォーカードの発言に、後ろに居た砌が刀を構えて怒鳴った。
「…何が悪いだと!?」
「何だ、貴様等も居たのか、東国の犬ども」
「なっ、何そのついでみたいな言い方!!」
フォーカードの足蹴にするような態度に、儚が唾を飛ばして抗議した。それを特に気にした様子もなく、フォーカードは低く唸るように続けた。
「犬は犬だ。東国王の言いなりになるしか能のないお前達に、留衣を渡すわけにはいかない」
フォーカードは砌達をそう一瞥するだけで、留衣を抱えているシウアの方へ一歩踏み出した。
「なっ――…っ!!」
本能で危機を感じ、俺は咄嗟にシウアの前に庇い出たが、その気配は剣を構える前に既に背後にあった。彼はシウアの腕を引き上げ、譏笑する。
「その古傷を抉られたくなかったら、大人しくしていろ」
「…くっ!!」
シウアは歯を食いしばって抵抗しようとしていたが、術にかかったようにそのまま身動きがとれずに居る。それは側に居た俺やエルファ、東国の三人も同じだった。無言の詠唱を基本とするシウアの反応よりも早く自由を奪い、それを同時にいくつも展開する…。並大抵の人間が成せる業ではなかった。
フォーカードの視線の先には、掴んだ腕の服の裾から酷い火傷跡が見え隠れする。シウアのそれをこの男が刻んだものだと理解した時、俺はこの男が何者であるのかを悟って息を呑んだ。
「復刻の印…またやってくれたな」
フォーカードは冷ややかな目でそう言いながら、身動きの取れないシウアから荒く呼吸をして苦しむ留衣を抱き上げた。現実と過去が入り混じり、助けを乞うようにしがみ付く彼女を見、彼は満足そうに不屈の笑みを浮かべる。その光景に、何故か心の奥底から怒りのような感情が湧き、無意識にギリッ、と歯を鳴らした。
「フェイス・フォーカード…」
「…ほう?俺の事を知っているのか」
思わずその名を口走った俺を奴は振り返り、全て見透かしているかの様に口の端を上げた。
「俺はお前を知っているぞ、紫水晶」
「……!?」
予想もしなかった言葉に俺は眉を潜める。留衣が俺を探していた事といい、自分の知らない場所で何かが起こっている。そう思わざるを得なかった。
彼は過去にシウアと死闘を繰り広げた前例のある男。だが俺は直接の面識はない。俺がその場に駆けつけた時には、瀕死に倒れる主の姿しかなかったのだから。その時もノイズだらけの過去の映像に彼の姿は映っていなかった。
「お前の存在が留衣の魂を掴んで離さないのだ。たとえそれが前世からの因縁だろうが、俺には面白くない話だ」
「……何の事だ?」
前世?因縁?自分の過去さえ知らない俺には、見当もつかない話だ。人間であるこの男が一体、自分の何を知っていると言うのだ?俺は軽く混乱していた。
「この女の目の前で、お前の躯を血の一滴まで光で焼き尽くしたら、さぞ愉しいだろうな」
「……っ!?」
フォーカードは留衣の力を利用して光の印を展開した。そこには、幾多の光の刃が現れる。奴の眼は狂気に満ち溢れ、身動きがとれずに刃を迎え入れる事しか出来ない俺を嘲笑う。
「さぁ、どこからバラしてやろうか…」
「…――――やめて!!」
禍々しい奴の言葉を遮るように、甲高い女の声がしたと同時に、砌が持っていたネックレスがたちまち部屋一面を光で満たした。眩しくて直視する事が出来なかったが、その声に、その気配に、完全に思考が停止した。だが現実を疑う俺などお構い無しに、時間はやがて光を掻き消す。大きく両手を広げた彼女は俺の前に庇い出ていた。
「――――アザレ…ア…?」
声にならなかった。まるで、初めて彼女の名を呼んだ時の様に。光の印が彼女のブロンドの髪を照らす。その体に、あの時の無残な穴は胸に空いていない。
「…アザレア・リーランス。俺はお前の存在に気づいていながら今まで野放しにしてきた。いつでも消せると思っていたからな…」
「……きゃあっ!!」
「アザレアさん…!!」
突然の事で思考は働いていなかったが、何があっても彼女を守らなければならない。本能がそう訴えた。俺は咄嗟にその体を引き寄せて倒れこんだが、フォーカードの放った術の爆風に巻き込まれて、そのまま勢い良く壁に打ちつけて崩れ落ちた。
「――ぐっ…!!」
束縛の印に逆らった反動と背中を打ち付けた痛みが同時に押し寄せたが、腕の中で目を瞑ってうずくまっている女を俺はより強く抱きしめた。
「アメジスト…?」
「…もう二度と、俺の前に立たないでくれ…」
「…え?」
何度も夢に見た。彼女はその度にこの腕から消える。俺は声にならない声でそう悲願した。記憶の中で幾度となく繰り返すだけの、叶わない願いだった。たが彼女は、俺の言葉に翡翠色の瞳を丸くしてこちらを見上げた。
「……っ!!」
目の前の現実に言葉を無くし、俺達はしばらく互いに見つめ合った。彼女は俺の言葉の意味を探るように瞳を覗き込んだが、俺は真っ直ぐなその眼差しを直視出来ずに先に目を逸らした。幻などではない。死んだはずの彼女が、今現実に自分の腕の中に居る…。
次の言葉を吐く様子のない俺を見て、彼女はふっと微笑んで何かを言いかけたが、それをフォーカードが再び組んだ鋭い印の気配が遮る。
「感動の再開の所悪いが、その辺にしてくれないか。せっかく良い材料が揃ったのだ。もう少し愉しませろ…」
「フォーカード…貴方に、これ以上好きにさせるわけには…っ!」
「フッ、その躯で何が出来る?」
本来は温和な彼女がフォーカードを強く睨んだが、彼はアザレアの首筋を一瞥して鼻で嗤った。俺はハッとして彼女を見る。その首筋には、浅黒い紋様があった。あの時と変わらない、彼女の躯は闇に蝕まれたままだった。それ凝視して戸惑いを隠せずにいる内に、フォーカードの印は完成する。
「我、煌々統べる者は炎獄をも司らん…」
「くっ…!!」
作品名:In der Stadt von einer stillen 作家名:一綺