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In der Stadt von einer stillen

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後からやってきた砌が同じように見下してきた。俺は浅く息を吐きながら彼らを睨んだが、留衣が俺を抱き起こしたまま庇い出る。
「おとなしくしているとは思わなかったからこれを奪ったのに、どこまで無茶をするんだ」
そう言って砌が握り締めた手を開いた。そこには、雫の形をしたクリスタルのネックレスが灯火を反射して輝いていた。それを見て留衣は砌をきつく睨んだ。
「それを返して。持ち主が見つかったわ」
「…ほう?それがそいつだとでも?」
「えぇ、そうよ。それを彼に渡したら、もうここには用はない。貴方達について行くわ」
「留衣…」
留衣は最初からそうするつもりだったのだろう。自分には希望も救いも何も無い。ただひとつ、あのネックレスを俺に渡すという目的だけはあった。それが済んだらその手に何も残らない。少なくとも彼女はそう思っている。
「まあ、これが誰のものだろうが俺達には関係ない。お前が来てくれるなら何でもいい」
そう言って砌はネックレスを差し出した。留衣もそれを受け取ろうと、手を伸ばしたその時、
「留衣ちゃん、伏せて!」
留衣は後ろから早口で叫ばれたその一言に、慌てて俺を抱き締めるように身を縮めた。刹那、鋭い風を纏って槍の一閃が砌の右肩をかすった。
「ちっ、仲間か…!」
砌が腰に帯刀した刀を素早く引き抜き、突きの構えで右手をすり抜けたエルファの槍を床に向かって上からねじ伏せて足で押さえ込んだ。
「おっ」
身動きがとれなくなったエルファは、砌の身のこなしに感心したように驚き、左から薙がれる刀を避けもせず、左手で上から下へ空を切った。
「…なっ!?」
金属の激しくぶつかり合う音が室内に響いた。砌はいきなり目の前に現れた二本目の槍に目を見開いた。近くで見ていた儚と志穏も何が起こったのかと、槍とエルファを交互に見比べている。彼らには目を疑う出来事だろうが、砌にとってこれは二度目。相手が自分の理解を超える術を扱う者だとでも見たのだろう、すぐに跳び退って刀を構える。
エルファは楽しげに鼻を鳴らして槍の一本は軽く宙に投げて打ち消した。それにまた儚と志穏の二人は目を見張る。砌はもう何を見ても驚かない様子で、すぐに姿勢を低くしながら斬りかかった。エルファもそれに応えるように槍を構えた。
「…えっ!?」
だが、下段から斬りかかる刀に槍で防ごうとした途端、何かに槍を引っぱられてエルファは振り返った。
「二対一が卑怯だなんて言わせないよ!」
儚の鞭が槍を絡めとっていた。エルファがそちらに気を取られている間に、砌が一気に踏み込む。
「あっ…!」
俺は抱えられていた留衣の手をほどいて、エルファと砌の間に割り入った。それは力強くで押し入るでもなく、ただ静かにそう意識することで身体は軽く動いた。夜が深いだけあって、力が戻るのにそんなに多くの時間は用さない。またも大きく衝撃音が部屋に響く。召喚した黒剣が砌の刀を受け止めた。それはもう、彼らの目には何もかもが刹那的に見えるのだろう。砌は驚きを隠せないまま俺を凝視した。
「お前…、何故動ける!?」
「…やっとお目覚めか」
「これで借りは返したぞ」
内心、安堵したようにおどけたエルファに、俺は彼を一瞥して吐き捨てた。相手は人間だからと油断するからだ。危なっかしくて見ていられない。
「えぇ!?相手は留衣姉だと思って限界まで生気を奪ったのに、何で!?」
志穏は平気で動いている俺を見て、悲鳴のような声で驚いた。力を急激に奪われたせいで、まだ本調子というわけではなかったが、剣を振るうのに問題はなかった。
「一体何者だ、お前達」
砌は声を絞り出すように呻いた。その黒い瞳は、不可解なものを目の当たりにして揺れている。その心を表すかのように、軋み合う刃がギリギリと小刻みに戦慄いた。
「その問いには答えてやれない」
「…なら、この女を助けてどうするつもりだ?」
俺は顔をしかめた。愚問だ。
「彼女をどうにかしたいと思っているのはお前の方だろう」
「なんだと?」
「俺は彼女が望まないものから助けているに過ぎない」
「貴様、わかったような口を!!」
砌が低い姿勢で下から俺を睨んで、強く刃を押し退けたが、俺は軽く飛び退って剣を構え直した。
「…俺には、わかってしまうんだ」
彼には聴こえなかっただろうが、俺は思わず小さく呟いていた。
彼女の悲鳴も切望も、断片的だが痛いくらい伝わった。多すぎる映像のどれもが彼女の残酷な運命を物語っていた。まるで人の扱いを受けていない。
その力が故に魔物と罵られ、その力が故に利用したがる者も多かった。彼女が何に耐え続けてきたのか、それだけで十分に知れた。

そして、彼女が何を望んでいるのかも――…。

「おい、アメジスト…!!」
「…っ!?」
エルファの一言で我に返った。刹那、砌が刃物のような鋭利な術具を構えて俺の懐に踏み込んで来た。
敵を目の前にして過去の映像に意識をとられるなんて迂闊だった。少し遅れながらも、俺は咄嗟に剣を構える。
「それは!だ、駄目っ…!!」
「留…っ!」
金切り声が響いて、俺の前に留衣が飛び込んで来る。その光景に、俺は目を見開いた。


足元から過去が蘇る。

黄昏の日差し。

反射するブロンドの髪。

目の前で揺れて崩れる翡翠の瞳。

俺の方へと倒れこんだ、軽い、女の躯。

彼女が――…。

…彼女の、最後が――…。


「――アザレア…」


「アメジスト、何をしているのです!?」
その一喝で再び俺は意識を現に戻した。
留衣を刺して唖然と後ずさる砌と、立ち尽くす俺の間で倒れる留衣をいつの間にかシウアが受け止めていた。彼は急いで留衣の胸元に出来た痣を確認する。
「普通の傷ではない、これは…」
赤黒く浮かび上がるその痣を見て、シウアは唇を噛んだ。その腕の中で虚ろに宙を仰いだ留衣は苦しげに呟いた。
「復刻、の印…っ。あ…、ああっ、嫌…、嫌あああああああっ!!!」
彼女が突然苦しみ出したかと思うと、その身体中に傷跡がいくつも浮き彫りになった。どれも新しい傷ではない、古傷のようだった。
「留衣、留衣…!!」
悲鳴をあげる彼女に駆け寄り、宙を彷徨うその手を掴むと、痛撃な過去の映像に頭を打ち砕かれたような感覚に陥り、俺は額を押さえて膝を床についた。
今、彼女は砌の術によってこれを振り返り、実体験しているのだろう。
「シ、ウア…っ!」
「駄目です!これは…っ」
解除印を組みかけたシウアの手が、何かに弾かれたように電流を放った。俺はどうにか出来ないのかと一瞥したが、彼は変わらず険しい顔で術から放たれる情報を読み解いていた。
「無駄だ、そいつは彼女が俺に伝授した魔術と呪術の混合術。過去を全て振り返りきるか、光を扱う者にしか解除できない」
砌が苦渋の表情で呟いた。光、つまり彼女自身ならば解ける術なのだろう。だが、今は完全に過去に入り込んでしまっていて、とても冷静に印を組める状態ではない。
「せめて痛みの緩和を…」
全身に次々と表れる傷跡と彼女の絶えない悲鳴に、シウアが目を細めて印を組んだ、その時…。
「――それに触れないで貰えるか」
「……!!?」
一風の空気の流れと共に、一瞬で部屋の中心に炎が巻き起こった。東国の三人と俺達はそれを避けるように二手に分かれる。
作品名:In der Stadt von einer stillen 作家名:一綺