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舞うが如く 第六章 10~12

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舞うが如く 第六章
(12)老農のため息



 「百姓は、昔から菜種(なたね)みたいなもので、
 生かさず殺さず、時の支配者たちに、
 油のように絞りぬかれてきたもんだ。」



 陸稲畑の様子を眺めながら、
老農が一つ、大きなため息をつきました。



 「作柄(さくがら)が、良くありますせぬか?」


 琴の問いかけに、老農が目を細めます。
先日の此処での出会い以降、足まめに通ってくる琴がたいそう気に入っています。




 「作柄のことにはあらず。
 近頃の村々での騒動のことだ。
 取り過ぎた地租の返還を求めた騒動が
 日を追うごとに、大きくなってきているようだ。」



 「ワッパ騒動のことですか。」



 「左様。
 租税の取り戻しにとどまらず、
 県の役人や役所を相手取って、不正をあばくということになれば、
 以前の天狗騒動よりも、騒ぎが大きくなるのは必定である。
 役職を解かれた、元庄内藩の武士たちも、
 知恵と力を貸していると聞く。
 なかなかのキレ者たちが多いと、もっぱらの評判のようだ。」




 「士族たちが、農民を応援しているのですか」


 「士族といっても、
 特権階級と言えるのは、ごく一部の上層部だけのことである。
 あとは利用されたり、使い潰される者たちがほとんどだ。
 下級の武士たちの立場は、それほど農民たちと変わらないのであろう。
 農民をたぶらかして、相変わらず私腹を肥やしている、
 腐敗した特権階級の、
 そんなやり方を許せないという気持ちは、
 いまの時代となれば農民も失職したおおくの下級武士も
 同じことなのであろう。」


 
 「何処までも燃え広がる、野火のようですね。」