掌編集【Silver Bullet】
九/神隠しの日
朝起きると、異様な冷え込みを自覚した。いや、正確に言うならば異様な冷え込みを自覚して起きてしまった、なのだろう。朝起きたら張り詰めるような空気の冷たさに、身体が悴んでいた。
私は抱き枕(仮)ちゃんを突っ込んでいる押入れから冬物の服を取り出すと、そのまま着替える。ちょっと防虫剤の臭いが強いが、そのうちこの臭いも抜けてしまうだろう。
去年の十一月はこんなものだったかな、とか思いながら、東の空から顔を出しているお日様を拝む。思いの他早く起きてしまったようで、時計を見るといつも自分が起き出す時間よりも驚くほど早い時間に眼が覚めたようだった。
朝日を見ていると、こつん、と窓を何かが叩く音が聞こえた。
「虫、かな?」
もう一度、こつんと窓を叩く音。しかし、虫の姿はない。十一月にもなると虫が部屋の中に飛び込んでくる時期ではないのだが……。
そう思いながら窓へと近付くと、アパートの庭に見知った顔があった。
いつぞやの星の下で酒を飲み交わした男の子がそこにいた。
作品名:掌編集【Silver Bullet】 作家名:最中の中