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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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 火花を散らす二人の間に決死の覚悟でセレンが入った。
「まあまあ二人とも落ち着いてください。まずはフローラさんに直接会って、アレンさんがお礼を言えばいいんじゃないですか?」
 トッシュも頷いた。
「そうだな、もう用も済んだ。アジトに戻るついでにおまえも来い」
「俺がなんで行かなきゃなんねえんだよ」
 また言い合いが加速する前に、セレンがアレンをなだめようとした。
「トッシュさんに言われたから行くんじゃなくて、アレンさんがフローラさんに会いに行くために行くんです。わかりましたよね、アレンさん? フローラさんは命の恩人なんですよ?」
「わかったよ、行けばいんだろ。姉ちゃん、あんたにもそのうち借りを返すから、用があったら呼んでくれよな」
 顔を向けられたリリスは破顔した。
「わしのはただの気まぐれじゃ、恩を感じる必要はないよ。どうして借りを返したいというのなら、そのシスターに感謝するんだね」
 言われたアレンはセレンを一瞥してすぐに顔を背けた。
 トッシュはさっそく帰る準備をはじめた。
 それを見たアレンは嫌そうな顔をした。
「もう帰るのかよ? 俺腹減ってんだけど」
 リリスが笑った。
「躰を直してもらって飯の催促かい?」
「俺の楽しみは寝ることと喰うことなんだよ。躰を直したついでに飯の借りもツケといてくれよ。なあセレン、あんたも疲れた顔してんだから休みたいだろ?」
 そんな顔をしているのは、すべてアレンのせいだ。アレンもそれくらいわかっている。
「でも……」
 口ごもるセレンにリリスは声をかける。
「たまの客人じゃ、もてなしてやるよ」
 リリスもわかっていた。
 髪をかき上げたトッシュがつぶやく。
「不器用な奴だな」
 すぐにアレンが睨んできた。図星だったのだ。
 そして、セレンは鈍感だった。
「でもリリスさんにこれ以上ご迷惑をかけるのは……」
 ここから先はアレンが強引に押し切る。
「もてなしてくれるって言ってるんだからいいだろ。俺は飯を喰いたい、あんたは休みたい」
「休みたいなんて言ってませんけど」
「顔に書いてあんだよ。トッシュからもなんか言ってやれよ」
「俺様は帰りたい。アジトでフローラが待ってるからな」
「こ、の、や、ろぉ〜っ!」
 どこかで〈歯車〉の鳴る音がした。
 アレンが床を蹴り上げようとした瞬間、その前にリリスが立ちはだかった。
「やめんかど阿呆!」
 それはただのデコピンに見えた。だが、リリスのそれを喰らったアレンは、二メートルは吹っ飛んだのだ。
「いってーな、糞婆!」
「ほう、知っていてわしを?婆?と罵るか?」
 いつにリリスまで敵に回してしまった。
「わしの家から出て行け!」
 窓が独りでに開き、アレンの躰が浮いたと思うと外に放り出された。
 慌ててセレンはドアから外に出た。
 トッシュは普通に家をお邪魔した。
 そして、家は消えたのだ。
 蛙のように倒れていたアレンが顔を上げた。
 その先にあった巨大な人影。
「おめえら、どこ消えてた?」
 外でアレンたちを待っていたのはジープだけではなかったのだ。

《5》

「おら待ちわびた。おめえらが消えちまったもんだから、ここでずっと待ってたんだ」
 土気色の肌の巨漢――土鬼だった。
 立っているその全長は兄であった金鬼を凌ぎ、五メートル近くはあるだろう。目の前に立つアレンが小人のようだ。
「とりあえず俺の知り合いじゃないけど?」
 そう言ってアレンはセレンを通り越してトッシュに顔を向けた。
「俺様の知り合いでもない」
 トッシュは残ったセレンを見た。
「わ、わたしも知りませんよ!」
 三人とも初対面なので当たり前だろう。
 土鬼の目的は――。
「トッシュはどいつだ?」
 すかさずアレンはトッシュを指差した。厄介事には巻き込まれたくないということだ。
 トッシュが前に出た。
「俺様がトッシュだが……穏やかな用事じゃなさそうだな」
「おめえを殺しに来た」
 すっかり任務を忘れている。火鬼が心配したとおりだ。
「俺様を殺しに?」
「そうだ、兄者の敵だ」
「覚えがない」
 と言いながらも、トッシュの脳裏に浮かんできた顔。まさしく鬼兵団の金鬼だった。よく似た兄弟だ。
 トッシュは愛銃の〈レッドドラゴン〉を抜いた。
「弟のほうが実力は高そうだ!」
 戦いの中で養ってきた眼はたしかだ。
 ゆえに奇襲ともいうべき先制に打って出た。
 ドラゴンの咆吼!
 銃弾は心臓に向けて二発。その二発ともが土鬼の胸を貫いた。
 土鬼が笑った。
 血が噴き出ない!?
「おらは兄じゃのようにばかでねえから、業を磨いて磨いて最強にしただ」
 土鬼の躰が砂のように崩れ落ちる。
 一体化。
 もう土鬼がどこにいるのかわからない。
 声はどこからともなく響いてくる。
「死ねーッ!」
 姿を消したメリットを考えれば、攻撃は死角から来るはず。
 そう予想していたトッシュは度肝を抜かれた。
「正面か!」
 砂が一本の大きなドリルとなって飛んできた。
 トッシュは横に飛んでどうにか躱した。もし、死角からの攻撃だったら、躱すのが遅れていただろう。
 また土鬼は砂と同化してどこにいるのかわからない。
 大量の砂が動き出す。
 手だ、人間を一掴みにできるほどの砂の手が現れた!
 巨大な影がトッシュに覆い被さる。
「俺様は虫じゃないぞ!」
 砂にまみれながらトッシュが跳んだ。
 まるでハエ叩きのように巨大な手が砂に打ち付けられた。
 何度も跳んでトッシュが逃げる。巨大な手が地面を叩きながら追ってくる。
「糞ッ、人間がどうやって土塊[ツチクレ]に変わるんだ! 俺様の知っている魔導の範疇を越えてやがる!」
 〈レッドドラゴン〉が吼える。
 しかし、銃弾は砂に虚しく埋もれるだけだ。
 この怪物には物理的な攻撃が効かないのか?
 肉体は臓器は脳はどこに消えた?
 砂の一粒一粒が意志を持った生物だとでも言うのか!?
 トッシュは逃げることしかできなかった。
 ただ見守っているだけのアレンとトッシュの目が合った。
「助けてやってもいいけど貸しな」
「なにが助けてやるだ、おまえにならどうにかできるのかッ!」
「そんなのやってみなきゃわかんねえよ」
 アレンも策があるわけではないらしい。
 何も出来ずにいるセレンが必死になってアレンに訴える。
「助けてあげてください、アレンさん!」
「あんたが助けてやれよ」
「それができないから頼んでるんです!」
 セレンに太刀打ちができるわけがない。敵は人智を越えている。トッシュすら一方的な苦戦を強いられているのだ。
 ――人智を越える。
 現在の人智を越えた存在は?失われし科学技術?。
 魔導と科学は突き詰めれば、同じモノに行き着く。どちらも自然の摂理に則った法則でなりたっているもの。
 砂の怪人土鬼にも仕掛けがあるはずだった。人の想像を越えた技術はまるで魔法のように見える。
 しかし、トッシュは逃げるのに精一杯で、反撃することも、相手の弱点を考えることもできなかった。
 巨大な手から土弾[ドダン]が発射された!
 トッシュは背中に一発目を受けた。今まで受けたどんなパンチよりも重く響く。
 二発目は紙一重で躱した。