魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-
同じ話を聞いて驚くのセレンだけではないだろう。?暗黒街の一匹狼?と環境保護団体というのは、冗談もいいところだ。
環境保護団体というが、集まっている面子の中には、がたいの良く血の気が多そうな者も多かった。
セレンは冗談でも言われたのかと思って、フローラに尋ねる。
「本当に環境保護団体なんですか?」
「ええ」
と言ったフローラは見た目が合致しているが――。
「本当に本当ですか? だって、そこに置いてあるの銃ですよね?」
セレンの視線の先には壁に立てかけてあるライフルがあった。
「ええ、本当よ。ただあなたが想像していたものとは、少し違ったのかもしれないわね。この名を聞いたことがないかしら――ジード」
「まさかそんなフローラさんが……」
フローラが発した名前を聞いてセレンは驚きを隠せない。もしそうだとしたら、セレンには似つかわしくない場所だ。逆にトッシュがいる理由は少なからず理解できるようになる。
ジードはここ最近頻繁に新聞に載っている団体だ。
ここに来るまでにセレンは可笑しいと思った点がじつはあったのだ。
まずこの場所が飯店の地下にあり、隠し扉と隠し通路を使って通ってきたこと。さらに見張りの者たちが武器を見えるように携帯していたこと。とても穏やかな空気とは言えなかった。
それらの見てきたものが、フローラの言葉を裏付けてしまっている。
世間を賑わすジードは環境保護団体などと呼ばれていない。
「テロリストだったんですか!!」
セレンが叫んだ。
一瞬にして部屋に殺気が張り巡らされた。
周りにいた者の眼がセレンを捕らえて放さない。
今の発言がこの空気をつくってしまったことにセレンは気づいた。
助け船を出してくれたのはトッシュだった。
「まあ、新聞にもそう書かれてるからな。シスターがそう言うのも無理はない。おまえらもそう怖い顔するな、本当にテロリストみたいだぞ?」
殺気が治まった。
しかし、セレンはここにいるのが気まずくなった。
フローラが微笑む。
「奥の事務所で話しましょう。トッシュも早く来て」
セレンを逃がすように三人は事務所に入った。
部屋に入るとすぐにトッシュはテーブルに寄りかかって煙草を吸いはじめた。
「で、シスターがなんの用だ?」
「アレンさんのことで……」
「あいつか……帰ってくれ、俺は今とても平和に暮らしてるんだ」
周りからテロリスト呼ばわりされる団体にいながら、平和とはよく言えたものだ。
話も聞かずに追い返そうとするトッシュにセレンは詰め寄った。
「話ぐらい聞いてください、アレンさんが意識不明で大変なんです!」
「だから俺様になにをしろって言うんだ? あいつを助ける義理なんて俺様にはないぞ。早く帰れ、アレンのこともほっとけ。俺様とあいつに関わらないことがシスターの身のためでもあるんだ」
「わたしだってあなたやアレンと関わりたいわけじゃありません。わたしだって平和に暮らしたい……でも、目の前に困っている人がいたら助けてあげたいと思うのが当然じゃないですか!」
必死な訴えはトッシュに伝わるのか?
「当たり前だと思ってるのは?お嬢ちゃん?だけだ。クーロンなんて街に住んでるクセに、世の中のことがまったくわかってないんだな」
「わたしだって世の中のことくらい……」
「わかってない。シスターはクローンにいる困ってる奴をいつも片っ端から助けてるっていうのか?」
「それは……」
「そりゃ助けてないよなぁ。でもそういう奴がいることは知ってるはずだ。知っていても眼に入れないようにして、教会なんかに閉じこもってるんだろう?」
「もういいです、あなたなんかに頼みません!」
啖呵を切ってセレンはトッシュに背を向けた。背を向けてから後悔をする。アレンを助けたいと思ってここまで来たのに、自分の一時の感情のせいでアレンを助けられなくなってしまうかもしれない。
セレンが謝ろうとしたとき――。
「彼女のことを助けてあげて」
フローラが優しく言った。
次の瞬間、空気ががらっと変わった。
「俺様がどんな奴でも助けてやるよ!」
トッシュは凛々しい顔をしてフローラに視線を送った。
変わり身の早さにセレンは唖然とした。そしてすぐに悟ったのだ。トッシュがフローラにどのような感情を抱いているか――。
どう見ても今のトッシュの行為は、女の前で格好をつけたい男だ。そうする理由は一つだろう。
セレンはフローラの表情から、そのあたりの感情を察しようとしたが、こちらの想いはよくわからなかった。
別人のようなやる気を見せてくるトッシュ。
「俺様はなにをしたらいい? 具体的な何かがあって俺様を尋ねて来たんだろう?」
迫ってきたトッシュの気合いに押されてセレンが後退る。
「ええっと、リリスさんの家の場所を教えてもらえるだけでいいんですけど」
「よしわかった、車に乗せてってやる」
話がとんとん拍子で進んでいく。
さらにトッシュが迫ってくる。
「アレンはどこにいる?」
これに答えたのはフローラだ。
「医務室に運んでもらったわ」
教会にひとりで残しておくわけにはいかず、手間取ったがここまで運んできた。
トッシュは大きく懐いた。
「ならすぐにでも出発だ。フローラはどうする?」
「わたくしはここに残るわ。ジードの活動があるもの」
「そうだな……」
少しトッシュはうつむいて寂しそうな顔をした。とてもわかりやすい。
そしてトッシュは顔をあげた。
「さっき仲間と話し合ったんだが、やはり次のリーダーはフローラがいいとみんな言っている」
「困るわ、わたくしのいないところで話をするなんてずるい。リーダー代行はしても、リーダーをやって皆さんを引っ張る器なんてないもの」
「そんなことあるか、みんながフローラを指示してるんだ」
「考えておくわ」
「みんなもいい返事を期待してる。よし、行くかシスター?」
トッシュに顔を向けられたセレンは頷いた。
「はい、いつアレンさんの様態が悪化するともわかりませんから、早く行きましょう」
こうして再び三人でリリスの元へ行くことになった。
まるで歴史が繰り返しているようだ。
玉座の間に集まった鬼兵団の数は三名。
ルオは不機嫌そうだ。
「二人ほど足りないようだな、朕は全員と言った筈だが?」
皇帝を前に跪いている三人。
後ろの二人のうち、一人目は東方にかつて存在した花魁の格好をした狐顔の女。紅い着物が眼に焼き付く名は――火鬼[カキ]。
横にいる土気色の肌をした大男。殺された金鬼の弟である――土鬼[ドキ]。
そして、一歩前に跪いている黒く塗りつぶされた仮面を被っている性別も不明な者。この者が鬼兵団のリーダーである――隠形鬼[オンギョウキ]。
「鬼兵団ハ元ヨリ結束シテ集マッタ集団デハナイ故、自由ナ思想ヲ持ッテ招集ニ応ジル応ジサナイモ団員ノ自由」
隠形鬼の仮面の下から発せられた声は、まるで合成音のような響きをしていた。
ルオを守護していた〈黒の剣〉が唸った。
刹那、隠形鬼の首を突き刺そうと〈黒い剣〉が翔けた。
誰一人この場を動かなかった。動けなかったのではなく、動く必要がなかった。
「フフフッ、オ戯レヲ」
作品名:魔導装甲アレン2-黄昏の帝國- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)