魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-
「なにか心当たりが?」
女性に尋ねられ、セレンは少し戸惑った。
「いえ、その……」
あのことを言っていいものなのかわからない。
たしか……セレンがアレンの身体を見たのは、この教会での出来事だった。あのとき、金属の半身を見られたアレンは平然としていた。まったく隠すそぶりも見せなかったが、見られたあとだから開き直ったのかもしれないし、アレンの了解を得ずに話すことは躊躇われた。
女性はそれ以上の追求をしなかった。
「まずは彼女を運びましょう」
「えっ、女の子だってわかったんですか!?」
「格好は荒くれの男のようだけれど、唇の柔らかさは誤魔化せないわ」
女性は微笑んで、アレンの身体を抱きかかえた。大の大人ではないとはいえ、アレンをひとりで抱えるのは大変だろう。すぐにセレンも支えた。
「こちらです、教会の中へ」
二人でアレンを教会の中まで運んだ。
隅々まで掃除してあった廊下は泥だけになってしまったが、今はそんなことを気にしている場合ではないだろう。
「シャワールームは?」
女性に尋ねられ、セレンは申し訳なさそうな顔をした。
「シャワーはありませんけど、お風呂場はこちらです」
まずはこの泥を落とさなければ。
風呂場に着くとセレンはポンプを動かし水を出した。そして、この場を女性に任せて部屋を飛び出そうとする。
「タオル持ってきます!」
風呂場を飛び出し、急いでセレンは大きめのタオルをいくつも持って帰ってきた。
「あっ!」
セレンは顔を赤くして目を伏せた。
「すみません!」
再び風呂場に飛び込むと、女性もアレンも裸になっていたのだ。
「同じ女同士なのだから気にしないで。あなたも泥を流して着替えたほうがいいわ」
「あ、あっ……は、はい」
少しセレンは恥ずかしそうにしながらも服を脱ぎはじめた。
ふと、セレンの脳裏に思い出される過去の記憶。
母のように、ときには姉のように慕っていたシスター・ラファディナ。昔はよく彼女とお風呂に入っていた。懐かしく温かい記憶だ。
風呂場に飛び込んだ拍子に、二人の裸を見てしまったせいで考えが及ばなかったが、今さらながらセレンは気づいた。
「彼女の身体……驚かれましたか?」
アレンの身体を見られてしまった。あのとき口ごもったことも、意味を失ってしまった。
「ええ、こんな人間がいるなんて信じられないわ」
?失われし科学技術?の時代ならまだしも、今の時代にはありえない技術。医術と言うべきか科学と言うべきか、半身を機械に覆われた人間が存在していた事実。誰もが驚愕するだろう。
自分たちとアレンの身体を洗い、バスタオルに来るんだアレンをセレンの部屋のベッドまで運んだ。
セレンと女性はバスタオルを身体を巻いて、着替える間もなくアレンの看病をした。
女性がアレンの様態を診る。
「様態は変わらないわ。良くもならず、悪くもならず、まだ半分死んでいる……」
「やはりお医者様を……でもお金が」
医者を呼ぶという選択は、意識を失ったアレンを見つけたときから考えていた。だが、ネックだったのは治療代だ。
「医者は呼ばなくていいわ。わたくしの見立てでは、ただの医者では治せないでしょう」
「もしかしてあなたはお医者様なのですか?」
「多少の心得はあるけれど、医者ではないわ」
「そういえば、名前を伺っていませんでした。わたしの名前はセレンと言います」
「あなたの名前は伺っているわ。わたくしの名はフローラ」
「わたしの名前を?」
「この場所を教えて頂いたときに、あなたの名前もいっしょに」
フローラは笑みを浮かべた。
「どなたから聞いたんですか?」
「うふふ、秘密。それよりも服を貸していただけるかしら?」
「ああっ、気が利かなくてすみません。尼僧服しかありませんけど、それでよろしいですか?」
「ええ、ありがとう」
すぐにセレンは別の部屋に服を取りに行った。
部屋に戻ってきたセレンが持っている尼僧服はラファディナの遺品だった。
「フローラさんのドレスに比べたら粗末な服ですが……」
「どんな服でも構わないわ」
服を受け取り着替えをするフローラ。
セレンも着替えを済ませ、アレンも着替えをさせることにした。やはり服は尼僧服しかなく、セレンの物を着せた。
尼僧服を着たアレンの姿はセレンを驚かせるものだった。
「女の子みたい……あっ、はじめから女の子でした」
あとは髪を切って梳かせば、より女の子らしく見えるだろう。振る舞いや格好は少年だとしても、やはり少女なのだ。
セレンはアレンの手を握った。
「冷たい……このまま目を覚まさないなんてこと……フローラさん?」
悲痛な表情でセレンはフローラを見つめた。
「わたくしにもわからないわ。その子の状態を看ることのできる方は、医術ではなく、その半身の機械に精通した方でしょう」
アレンを助けるにはどうしたらいいのか?
――大魔導師リリス。
その名がセレンの脳裏に浮かんだ。
しかし、問題はセレンがリリスの居場所を知らないことだった。
以前、リリスの家に行ったことがあるが、道はトッシュに任せていたために覚えていない。
そうなるとまずはトッシュを探さなければならない。だが、セレンはトッシュに居場所すら知らなかった。?あれ?から会ってもいないのだ。
アレンの意識が戻らないまま、様態が悪化してしまったら?
リリスやトッシュを探している間にも、そうならないとは限らない。
「あの人がこの町にいるかどうかも……」
独り言をつぶやいてしまったセレンにフローラは尋ねる。
「あの人? その方がこの子を治せる方なの?」
「あのっ、違います。治せる可能性がある方は別の方なんですけど、その方の居場所を知っている方がまた別の方で……トッシュさんって言う方なんですけど」
「?暗黒街の一匹狼?と呼ばれていた方かしら?」
その通り名を出されてセレンは不味いと思った。評判の良くない名前だ。セレンまでも同じと思われ、距離を置かれる可能性もある。距離を置かれるだけならまだしも、災難が降ってくる可能性もある。
不味いと思いながらも、セレンは消極的に首を縦に振った。
その嘘を付かなかった行為が岐路を見いだしたのだ。
「その方ならよく存じ上げているわ。もちろん居場所も知っているわ」
「本当ですか!?」
「ええ、すぐに連絡をつけてみましょう」
「ありがとうございます!」
こうして再び歯車は回りはじめた。
《3》
「おう、久しぶりだなシスター。フローラその服はどうした?」
「少し汚してしまったのよ」
居場所を知っているというだけではなく、顔見知り以上らしい。
三ヶ月前となに一つ変わらないトッシュの姿。
しかし、大きく変わった点があった――周りだ。
?暗黒街の一匹狼?が群れていた。
酒場ならまだしも、酒もない場所で仲間たちといっしょにいたのだ。しかも、セレンの顔を見る寸前まで、真面目な顔つきで話し合いをしていた。
このことについて、道すがらセレンはフローラから話を聞いていた。
――同じ環境保護団体で活動しているのよ。
と、フローラが言ったときには、セレンは言葉を失ってしまった。
作品名:魔導装甲アレン2-黄昏の帝國- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)