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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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「おもしろい冒険活劇なのに……とくに料理長VS僕の死闘とか」
 仕方がなくワーズワースも三人のあとを追った。

《3》

 アレンは本気だった。
 それは死闘だったからだ。
 殺らなければ殺られる。
 たしかに拳には手応えはあった。
 そして、ルオは約一〇メートル後方まで吹っ飛ばされたのだ。
 内臓は爆発し、骨は粉砕している筈だった。
 即死でも可笑しくない。
 ましては立ち上がることなど……。
 ルオは一〇メートル先で嗤いながら立っていた。
 それを確認したライザは呟いたのだ。
「素晴らしい研究成果だわ」
 不気味な言葉だった。
 〈黒の剣〉がアレンを襲う!
 それだけではない、ルオも自らの肉体を駆使して攻撃を仕掛けてきたのだ。
 この怖ろしい〈黒の剣〉の切れ味を、アレンは嫌というほど知っている。
 刃とルオの拳のどちらを躱すか?
 片方しか躱せない状況に追い込まれたアレンは刃を躱した。
 刹那、ルオの拳がアレンの胸を殴った。
 宙を飛ばされながらアレンは驚愕していた。
 金属の右胸が拳の形にへこんだのだ。
 銃弾を弾き返す金属が、少年の拳でへこまされたのだ。
 もはやそれは人間の力ではない。
 アレンは甲板に叩きつけられ、二度跳ねた。
 もう一発も喰らえない。
 すぐに〈黒の剣〉が天空からアレンを串刺しにせんと降って来る。
 瞬時にアレンは膝のバネを使って、立ち上がると同時にジャンプした。
 その一刹那前までアレンが寝ていた場所を〈黒の剣〉が突き出す、深く深く、甲板を貫いてもなお深く貫いた。
 〈黒の剣〉の弱点は、あまりにも切れ味が良すぎることだった。
 この場から〈黒の剣〉が消えた。
 アレンが〈グングニール〉を抜いた。
 その稲妻、〈黒の剣〉に呑み込まれようと、ルオにはどうだ!
 轟く雷鳴!
 乱れ飛ぶ稲妻はルオの躰を貫いた。
 眼を剥いたルオは一瞬止まった。
 ゆっくりと床に引きつけられるようにルオの躰が後ろへ倒れる。
 ドスン!
 それは人が倒れると言うより、荷が落ちたような衝撃と音だった。
 兵士たちがアレンに銃口を向け、ルオに駆け寄ろうとした。
 それを片手を伸ばしたライザが制す。
「ミンチにされて家畜の餌にされたくないのなら、黙って見てなさい」
 そうだ、ライザは知っているのだ。これで終わりでないことを――。
 ルオが上半身を起こした。
「躰の凝りが取れたようだ、感謝するよ。お返しをしよう」
 平然としている。まさに化け物。
 アレンは自分の真下から鬼気を感じた。
 すぐさま飛び退いた。
 〈黒の剣〉が甲板を貫き天に昇った。
 アレンの頬に落ちてきた紅い血。
 何処かで〈黒の剣〉は血を啜ってきたようだ。
 そして今、〈黒の剣〉はアレンの血を欲している。
 血に飢えているためか、先ほどより格段に疾い!
 走るアレン。〈黒の剣〉は軌道を変えながら降って来る。
 〈歯車〉が叫んだ。
 躱しきれるか!
 否、アレンが甲板を蹴り上げるよりも疾く、〈黒の剣〉はアレンの背中を串刺しに――。
「待て!」
 ルオが叫んだ。
 止まった。
 〈黒の剣〉の切っ先はアレンの柔肌を数ミリ刺して止まっていた。
「試してみたいことがある」
 そう言ったルオの元に〈黒の剣〉が戻っていく。
 アレンは滝のような汗を流して膝から崩れた。
 ――死。
 死というものをあれほど間近に感じたのははじめてだった。
 このときアレンは、真物の敗北を味わったのだ。
 ルオがアレンを助けたのは情けではない。新たな愉しみを思い付いたのだ。
 〈黒の剣〉がルオの手に握られた。
「我が一族に伝わる魔剣――歴代の中で真にこの剣を使いこなせた者は、初代皇帝のみであったと云う。剣は主が握ってこそ真価が発揮される。握れぬ剣なら、柄などいらぬ」
 試しにルオは軽く薙いだ。
 それは風の刃であった。
 〈黒の剣〉が起こした風は遥か砂漠の砂を巻き上げ、風が通った真空の道に何人もの兵士が吸いこまれた。
 ライザは満足そうに笑っていた。
「本気を出せばこの艦も真っ二つにできそうね」
 それほどまでの威力だった。
 兵士たちは唖然として棒立ち状態だ。
 アレンは呟く。
「……冗談じゃねえ」
 一撃でも喰らえば死ぬだけでは済まされない。屍体すらないだろう。そう、跡形も残らない。
 正攻法で勝てる相手ではない。
 どこかで〈歯車〉の音がしたような気がした。
 逃げ場なら一つしかない、とアレンはそこを目指して一気に駆けた。
 艦内だ、艦内ならあんな大技使える訳がないのだ。
 だが、ルオはやる気だった。
 〈キュクロプス〉ごとアレンを葬り去ろうと、〈黒の剣〉を薙ごうとしたのだ!
 さすがにライザが止めようとした。
「ルオ様!」
 しかし、ルオは聞く耳を持たず、切っ先を後方に向けた。
 あとは勢いを付けて振るだけだった。
 ――異変。
 眼を口を開けたルオの手から〈黒の剣〉が落ちた。
「く……ぐぐぐぐぐ……ぎぎぎ……あぁぁぁぁぁッ!!」
 叫んだルオが急に床に転げ回って苦しみ藻掻いたのだ。
 ライザは顔色一つ変えない。慌てふためくのは兵士たちのみ
「これが今の限界ね。これならまだ兵器のほうが実用的だわ」
 ゆっくりと歩き出したライザは、ルオの前で止まり片膝をついた。
「アレンには逃げられてしまったわ」
「糞……まだ……まだ扱えぬというのか……あれほどまでの苦しみに耐えて、まだ朕は〈黒の剣〉を従えることができぬのかッ!!」
「ええ、そうのようね。そうであるならば、アタクシはいくらでも貴方に力を授けましょう」
「くくくっ……面白い。修羅の道、極めようではないか」
 ルオは立ち上がった。
 だが、その躰はすぐにバランスを崩して片膝をついた。
 バランスを崩したのはルオだけではない。甲板にいた全員が一斉に体勢を崩したのだ。
 ライザは遠ざかる地表を見た。
「動いているわ、〈キュクロプス〉が動いている!!」
 ルオの命令も、ライザの命令もないまま〈キュクロプス〉が飛び立った。
 帝國の絶対者であるルオの知らぬところで、起こるはずのないことであった。

 警報が鳴り響く廊下を全速力で駆ける。
 その警報はアレンが鳴らしたものだった。その事を知らない四人は、自分たちの脱走がばれたのだと警戒した。
 角を曲がればその都度、敵に出くわす。そして、セレンは涙ぐみながら十字を切るのだ。
 セレンは頭ではわかっていた。
 こうやってトッシュは、セレンの知らぬところで、数え切れない命を奪ってきたのだろう。
 怖ろしく耐え難い。ましてやセレンは神に仕えるシスターだ。
 ワーズワースがセレンの手を握った。
「眼を開かなければ走ることはできないよ。君に涙は似合わない」
「えっ?」
 自分でも気づかないうちにセレンは泣いていたのだ。
「セレンちゃん……これが世界の現実なんだよ。目を背けて生きたいのなら、人の全くいないところで暮らすしかない。それが嫌なら、この時代を変えるしかないんだ」
 まるでワーズワースも何かと戦っているような口ぶりだった。
 シュラ帝國による恐怖政治。
 砂漠化が進む大地。
 人々の心も退廃していく。
 フローラはジードの一員として帝國と戦っている。