魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-
気を失っているトッシュと物陰でこちらを見ているセレン。火鬼は蹲ったまま震えている。
ライザは一通り見回した。
「老婆と坊やがいないみたいだけれど?」
「サテ、りりすハ何処ニイルヤラ。あれんナラバ、未ダ此ノ遺跡ノ何処カニ居ル筈デ御座イマス」
話を聞いていたルオは笑っていた。
「君の偽者疑惑は晴れないようだ。まあよい、あの小僧との決着はまだついていなかったね。まだ残っているのなら、朕が直々に剣を交えよう。鬼兵団はこのまま仕事を続けるといいよ」
「ルオ様!」
ライザは口を挟んだ。
さらにライザが続ける。
「この者たちを信用するなんて、どうか考えを改めてちょうだい!」
「君だって本物か偽物かわからないんだ。ここは朕が指揮を執らせてもらうよ」
帝國を走る不和。
自分たちがかく乱されていることに怒りを覚え、ライザは唇を強く噛みしめた。
《2》
アレンは〈キュクロプス〉に侵入していた。
前回の侵入では、サーチライトに見つかってしまい、レーザーの一斉放射に見舞われたが、今回は無事に甲板まで辿り着いた。
連絡手段を持っていなかったアレンは、トッシュたちと合流することもできず、次を見越してここに侵入した。
〈スイシュ〉を手に入れ、次の目的は帝國のどこかにある〈ヴォータン〉だ。この飛空挺に身を潜めていれば、帝國に辿り着くことができるだろう。もっと強硬な手段を取るなら、この飛空挺を奪う選択肢もある。
「腹減ったなぁ」
その選択肢をアレンは選んだ。
これだけ巨大な飛空挺なら、大きな料理室がある筈だ。それに合わせて食料庫にも大量の食料が積まれているだろう。
アレンは辺りの匂いを嗅いだ。
「ここじゃわかんねえな。中に入ればわかるか」
艦内への入り口はすべて兵士によって守られている。甲板にも見張りが巡回に来る。アレンは急いで移動した。
そして、動いた途端に機会の眼によってサーチされたのだ。
鳴り響く警報。
「ヤバッ」
もう食料どころではない。
甲板に兵士たちが集まってくる。
どこかで〈歯車〉の音がしたような気がした。
天高くジャンプしたアレンは大砲の先に飛び乗った。
超巨大飛空挺の大砲はまるで橋のようだ。
アレンは大砲の上を駆けた。
さらにそこから大ジャンプを見せた。
船体から上に突き出た位置にある司令室まで飛び、そこにあった巨大な窓に強烈な拳を喰らわせた。
「イッ!」
歯を食いしばったアレン。
窓は対砲弾パネルだったため、アレンの一撃でもビクともしなかった。
アレンは拳を放った瞬間、中にいる人物たちと目が合っていた。
司令室にいたのはライザとルオだった。
ルオはアレンと目が合った瞬間、この上ない笑みを返してきたのだ。
窓への一撃が失敗したアレンは、何度も躰を打ち付けながら船体を転がり落ちた。
アレンの躰は船体から突き出た床に打ち付けられ止まった。それは巨大なエンジン部分だった。
〈キュクロプス〉には巨大な羽はない。エアバイクやリリスの車のように、重力に逆らって浮かぶことができるからだ。そのため、エンジンは飛行機のような、回転しながら空気を吸い込み吐き出す物ではない。代わりに鯨類の胸びれのような物がついており、それがエンジンの役割を果たしている。
アレンは再び甲板に向かった。
群がる兵士たちに向けて〈グングニール〉を放つ。
稲妻は容赦なく兵士たちを一網打尽する。
甲板を疾走するアレン。こうなれば強行突破だ!
艦内への入り口は開いている。そこから兵士たちが次々と溢れてくる。
再び放たれる〈グングニール〉の稲妻。
?雷獣?の通り名は伊達ではない。遣りたい放題だ。
しかし、敵は次から次へと湧いてくる。
数の前にアレンは追い詰められた。
アレンを取り囲んだ兵士たち。銃口は三六〇度からアレンを狙っている。
誰も動かずに時間が過ぎる。
アレンは視線だけを動かし活路を見いだそうとした。
まっすぐ強行突破をすれば良い的になってしまう。上へジャンプすれば、方向転換ができずに的になる。蛇行しながら駆ければ、それだけ移動速度が落ちて弾丸は躱しづらくなる。
浴びせられるであろう銃弾が多すぎて、回避確立が格段に落ちる。
アレンはゆっくり相手を刺激しないように動き、膝を曲げて〈グングニール〉を床に置いた。
「俺の負け。抵抗しないから撃つなよ」
兵士たちが輪を縮めてくる。
その輪が急に左右に開け、艦内への出入り口まで道をつくった。それはアレンの出口ではない。皇帝ルオの道だった。
「久しいなアレン。前回は邪魔の入った決着を、ここでつけようじゃないか」
「俺もあんたとはきっちりケリをつけたかったんだ」
威勢ではアレンは負けていない。
しかし、前回の一騎打ちでは、敗北寸前までアレンは追い詰められている。
〈黒の剣〉に〈グングニール〉は通用せず、右腕までも堕とされた。
アレンに勝ち目はあるのか?
〈黒の剣〉が宙に浮かびながら、ルオの周りを薙いだ。人払いだ。
「手出しは無用。これはシュラ帝國の誇りを賭けた一対一の決闘である!」
「なら俺はこれでも賭けようかな」
アレンは懐から〈スイシュ〉を取り出して掲げた。
その宝玉がなんであるか誰もわからないようだった。
ライザがハッとした。
「まさか〈スイシュ〉!?」
アレンが笑う。
「そーゆーこと」
そうと聞いてルオはすべてを理解したようだ。
「ほう、あれが〈スイシュ〉か。我が帝國を滅ぼすという魔導具」
想像していなかった言葉だった。それにアレンは首を傾げた。
「あんたの帝國を滅ぼす?」
「知らぬのか」
「これって水を生み出すためのオーパーツだろ?」
それを聞いたライザは腹を抱えて笑った。
「あはははっ、可愛い坊や。まあいいわ、とにかくそれはこちらに渡してもらいましょう」
「やだ」
アレンは短く断った。
〈スイシュ〉とは水を生み出す装置の核ではなかったのか?
そうであるという証拠はなかった。情報を鵜呑みにして、手に入れたに過ぎない。
急にライザの顔つきが代わった。そして、近くにいた兵士に耳打ちをして、その兵士は急いでどこかに向かった。
急を要する自体が起きた――とするならば、〈スイシュ〉と関係のあることだろうか?
さらに声を潜めてライザはルオに耳打ちした。
「〈スイシュ〉がここにあるということは、〈ヴォータン〉も狙われているはずよ。一刻も早く〈スイシュ〉を帝國の手に」
「賭には勝つ。下がって見ているといいよ」
ルオと共に〈黒の剣〉が前へ出る。
戦いがはじまる。
アレンは〈グングニール〉を懐にしまい両手を開けた。
「そっちから掛かって来いよ」
「言われずとも切り刻んでくれる!」
〈黒の剣〉の初手は薙ぎだった。
巨大な大剣はリーチも長く破壊力もあるが、長さの分、軸である柄から切っ先までが動くために一瞬のロスが生じる。
アレンは〈黒の剣〉を切っ先で躱し、剣が振られたのとは逆方向に逃げていた。
〈歯車〉が鳴り響いた。
「糞ったれ!!」
一気に踏み込んだアレンの拳はルオの腹を抉り上げた。
兵士たちが凍り付く。
ライザはにわかに笑みを浮かべた。
作品名:魔導装甲アレン2-黄昏の帝國- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)