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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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 アレンは〈スイシュ〉を地面に置いて着替えはじめた。
 置かれている〈スイシュ〉を奪うような気配は見せなかった。本当に隠形鬼はなにもしないつもりなのだろうか?
 濡れたまま着替えたので、服は少し湿ってしまった。それも外に出ればすぐに乾くだろう。この地下世界を出れば、世界は砂漠で覆われているのだから。
「私ハ行コウ。又何時カ会ウコトニナルダロウ」
 隠形鬼がアレンの目の前で霞み消えた。まさにそれは消失だった。
 そして、地面には〈グングニール〉が残されていた。
「……変な奴」
 ボソッとアレンは呟いた。

 セレンの前に現れたのは火鬼だった。
「探した探した、もうわちきはくたびれて、戦う気力も失せたでありんす」
 トッシュは〈レッドドラゴン〉に手を掛けた。
「だったら帰ってくれないか、べっぴんさんよォ」
「わちきもそうしたいのは山々でありんすが、首の一つも持ち帰らないと、依頼主に面目が立たないでありんす」
「だったら自分の首でも持ち帰えんな!」
 トッシュと共に〈レッドドラゴン〉が吼えた!
 この至近距離で火鬼は鉄扇により弾を弾き返した。
「おやおや、血の気の多いお兄さんだこと」
 余裕の笑みを浮かべた火鬼。
 トッシュは驚きのあまり、すっかり次の行動を忘れた。
 弾を受けたこともさることながら、鉄扇が弾を受けても破損しないことも驚きだった。
 鉄扇と言っても、それは武器の総称であり、実際に鉄でできているとは限らない。
 トッシュは振り返ってリリスを見た。
「リリス殿、少しばかり手を貸してはいただけないか?」
「断るよ。わしは性根の腐った女だろうと、どんな女だろうと、女として生きてる以上は其奴に手を出さん主義でな」
 これを聞いて火鬼は狂気に侵された笑みを浮かべた。
「わちきとは真逆の考えを御持ちのようで」
 刹那、鉄扇から炎が放たれた。
 狙われたのは――セレン!
「きゃーーーっ!」
 セレンの叫びは炎に包まれることはなかった。
 炎はセレンの前に立った妖女リリスの前で消滅したのだ。
「妾は女に手は出さぬと言うたが、守らぬとは言うておらぬ」
 妖女と化したリリスを見てしまった火鬼は息を呑んだ。
 先ほどまではたしかに老婆だったはずだ。混乱する火鬼は眼を剥いたまま口をわなわなと振るわせた。
「許せない、許せない、許せない、こんな美しい女が存在しているなんて許せない、キィィィーッ!」
 奇声をあげた火鬼は巨大な炎を撃ち放った。
「炎は美しい。じゃが、汝の心は醜いのぉ」
 またも炎はリリスの目の前で消滅した。
 火鬼は構わず炎を撃ちまくった。
 嗚呼、虚しいだけだ。
 決してリリスは傷つかない。
 火鬼の中で何かが完全に切れた。
「ぶっ殺してやる糞尼ァッ!」
 野太い男の声が木霊した。
 炎を宿した鉄扇がリリスの首を狙う。
 ついにリリスが動いた。
 敵と同じく炎を宿す。
 刹那、リリスは炎を宿した手で火鬼の顔半分を鷲掴みにした。
「ギャアアァァァッ!!」
 耳を塞ぎたくなる絶叫。
 肉の焼ける臭い。
 火鬼は顔面を手で覆いながら後ろによろめいた。
「顔が……わちきの顔が……アアアアッ!」
 地面に膝を付いた火鬼は戦意を喪失させた。周りすら見えていない。精神的な衝撃に耐えかね、喚くことしかできなかった。
 リリスはすでに妖婆に戻っている。
「女のままでいれば手は出さぬつもりじゃったが……」
 呟いたリリスを中心に強風が吹き荒れ、瞬く間にまたも妖女の姿に変貌した。
 トッシュもそれを肌が痺れるほどの感じていた。
「だいぶ下がってろ」
 トッシュはセレンを遠くに行かせた。
 急いで逃げたセレンは物陰から二人を見守った。
 そして、現れる黒い影。
 そいつはトッシュの影から這い出してきたのだ。
 驚きながらもトッシュは影に向かって銃弾を喰らわせた。
 まさかの出来事にトッシュは眼を剥き、激しい激痛でその場に転倒した。
 撃たれたのはトッシュだった。
 刹那にして影と自分の場所が入れ替わり、自らで自らの腹を撃ち抜いてしまったのだ。
 ――隠形鬼。
 目にも留まらぬ早さで、リリスは隠形鬼の胸に掌底突きを喰らわせ吹っ飛ばした。
 次の瞬間には、リリスはトッシュの傷口を見えない糸で縫合し、さらに氣による治療を施していた。
 トッシュの傷は深い。肉をそのまま鷲掴みにされ、抉られたような穴が開いていたが、どうにか縫合と氣によって出血は抑えている。それでもまだ瀕死の重傷だ。
 まだトッシュから手を離せないが、敵はすぐ目の前にいる。
 隠形鬼が静かに近付いてくる。
「久シブリダナ……りりす」
「久しぶり……じゃと?」
 リリスは眉をひそめ記憶を辿った。
 漆黒の不気味な仮面の主。
 その下に存在している顔は?
「林檎ヲ与エタノハ誰ダ?」
「だ、だれ……じゃ……いったい?」
 妖女リリスともあろう者が言葉を詰まらせた。見開かれた瞳に浮かぶ驚愕。
「御前ハモウ解ッテイル筈ダ。シカシ、其レハ答エノ半分デシカナイ」
「誰であろうと構わぬ、世界の脅威は滅するのみ!」
 リリスはトッシュから手を放し攻撃を仕掛けた。
 しかし、まさかリリスが後ろを取られるとは!?
 後ろを取られただけではない。隠形鬼は刹那うちにリリスを後ろから抱きしめていたのだ。
「答エヲ知リタイカ?」
「おのれぇッ!」
 リリスは妖気を宿した手で隠形鬼の仮面を鷲掴みにしようとした。
 その仮面は一瞬のうちに顔になっていた。
 それを見てしまったリリスは攻撃を止めざるを得なかった。
「莫迦な……まやかしめ!」
「そう、たしかにこの顔はまやかしよ」
 隠形鬼に声は玲瓏たる女の声になっていた。
 すべてを見守っていたセレンの位置からでは、隠形鬼の顔は見ることはできなかった。
 セレンが見たものは、隠形鬼の胸の中でリリスが一瞬にして消えたという事実。
「あっ……き、消えた!?」
 もうリリスはいない。
 残されたセレンはどうすることもできない。トッシュは瀕死のまま。
 すでに漆黒の仮面に戻っていた隠形鬼が、セレンのほうを向いた。
「生ケ捕リガ命令ダ。無駄ナ抵抗ハスルナ」
 逃げるという抵抗すら今のセレンにはできなかった。足が震えて立っているのもやったのだ。
 隠形鬼はトッシュの横に膝をついて、その傷口に手を添えて何をしはじめた。
 穿たれていた傷が見る見るうちに塞がっていく。肉が増殖しながら蠢き、血の痕だけを残して傷を完全に塞いだのだ。もう血を拭き取ればどこに傷があったのかわからない。
「シバシ待テ、客人ガ来ルヨウダ」
 上空を飛んでやって来る一台のヘリコプター。
 それはこの場にゆっくりと降りてきた。
 地面に着陸したヘリから降りてきたのはライザだった。
 そして、続いて威風堂々と姿を見せた皇帝ルオ。
 隠形鬼は膝をついて頭[コウベ]を垂れた。
 高い位置からライザは隠形鬼を見下した。
「アタクシの偽者がいると聞いて来てみたら、鬼兵団の二人がいた。どういうことか説明してくださる?」
「サテ、何ノ事カ?」
「惚けないで、なにを企んでいるの?」
「此ノ通リ、我々ハ依頼ヲ果タシテイタマデデ御座イマス」