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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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「敵と交戦中っぽいけど、どのだれとやり合ってるの?」
《帝國だ、帝國に待ち伏せされてた!》
「帝國に追われてるって話は僕聞いてないんですけど。まさか昨日の怪物も帝國の差し金だったりして?」
《そうだ、その昨日の奴と殺り合ってる最中だ!》
「げっ。やっぱりこっちも危ない感じだねぇ。こうなったら登ることはあとで考えるとして、そっちと合流しっちゃったほうがいいんじゃないかな?」
《もう黙ってろ!》
「まだ話の途中なんですけどー?」
 返事がない。
 最悪、やられた可能性もあるが、きっとシカトしているだけだろう。
 ワーズワースは二人と顔を見合わせた。
「どうしますお嬢さん方?」
 尋ねられても困るという表情をしたセレン。
 一方、リリスは遠くを眺めていた。
「ヘリがこちらに向かっておるな」
 まだ豆粒くらいだったそれが、だんだんとヘリコプターの全容を模っていく。
 シュラ帝國の軍事ヘリだ。どうやら戦闘用ではなく、輸送用らしい。とは言っても最低限の装備はついている。
 すでにリリスは車に乗り込もうとしていた。
「一先ず逃げるぞ。早う乗れ」
 エンジンが掛かった。
 立ち尽くしているセレンの腕をワーズワースが引いた。
「行くよセレンちゃん」
「あ、はい!」
 二人も車に乗り込み、アクセルが底の抜けるほど踏まれた。
 逃げる先は斜面の下――アララトへ!
「お婆ちゃんそっちじゃないよね!?」
 ワーズワースが叫んだ。
 それを無視して車は斜面を滑り落ちた。
 降りてきたのはいいが、アレンやトッシュの居場所がわからなかった。
 セレンはトランシーバーを手に取った。使い方はさっき見た。
「トッシュさん聞こえますか! 帝國の支援部隊が来たので、車ごと下に降りて来ちゃいました」
 応答はない。
 セレンの心配が募る。
「トッシュさん……大丈夫でしょうか?」
《大丈夫に決まってるだろう!》
 ボタンを押したままで通信が繋がっていたらしい。
 向う側からトッシュの荒い息づかいが聞こえる。まだ交戦中らしい。
《砂野郎、逃げても逃げても追って来やがる。物理攻撃は効かんし、どうしようもならん。おっ、今車が隣の道通りすぎるの見えたぞ!》
「本当ですか!? 今の道戻ってくださいリリスさん」
 セレンが運転席のリリスに指示を出した。
 すぐに車は急激なU字カーブをして、車内がGによって引っ張られる。
「きゃっ」
 後部座席のセレンは短く悲鳴を上げて、ワーズワースに抱きついてしまった。
「きゃっ」
 また悲鳴をあげてすぐにセレンはワーズワーズから離れた。
 少し頬を紅くするセレン。
 ワーズワースはにっこり笑っていた。そんな顔をされると余計に恥ずかしい。
 車の前方に人影が見えてきた。
 リリスは助手席まで躰を伸ばしてなにかをしようとしている。
 驚くワーズワース。
「お婆ちゃんなにしてるですか、ちゃんと運転してください!」
「なぁに、ちゃんと走っておるよ」
 リリスは呑気に言いながら、助手席のドアを開けていた。
 車はトッシュの真横を駆け抜けようとしていた。
 まさか!?
 外に伸ばされたリリスの手。
「さあ、掴みな」
 その手を掴んだトッシュが車に飛び込んだ。
 老婆とは思えない怪力でトッシュが車内に引き上げられる。
「うおっ!」
 トッシュは思わず声をあげた。
 砂がトッシュの足首に巻き付いた。
 土鬼の執念がトッシュの足首を捕らえたのだ。
 綱引きの縄のようにトッシュは両方から引っ張られた。
「ぐあっ、躰が千切れる!」
 足首に巻き付いている土縄は地面にしっかりと根を下ろしている。一方リリスの支えは片手で握っているハンドルのみ。リリスごと外に放り出されるのも時間の問題に見えた。
 車内が魔気に満ちた。
 トッシュの手を握る枯れた手が潤いに満ちていく。
 その姿を見たワーズワースは己の目を疑った。
「美しい」
 枯れ木のような老婆が美しい華に変化したのだ。
 そして、セレンもまたその姿をはじめて見て言葉を失った。
 妖女リリス。
 次の瞬間、土縄が限界までピンの張られ、急停止させられた車が激しく揺れた。
「くっ」
 歯を食いしばるトッシュ。肩が抜けたのだ。
 その衝撃を受けてもリリスは艶やかに微笑み、ハンドルも破損せずに耐えた。
 だが、驚くべきことが起きた。
 急停止したのは一瞬で、車ごと振り子のように振られたのだ。
 宙を飛ぶ車がさらに宙を飛んだ。
 まるでそれはハンマー投げだ。
 しかし、車は投げられることなく渦巻き貝の建物に叩きつけられたのだ!
 爆発した民家が破片を飛び散らせる!
 車は! 四人は無事なのか!
 崩れた民家に沈むように刺さっている車。
 そこにトッシュとリリスの姿はない。彼らは未だ土縄に繋がれ宙を振り回されていた。
 顔を傷だらけにしたトッシュ。
「今ので何本か骨が逝った……にも関わらず、リリス殿は……」
 顔にひとつも傷がない。傷などある筈がないのだ。こんな美しい顔に傷などある筈がない。すべての衝撃が物理法則を無視して、妖女リリスを避けたのだ。
 目の前でリリスを見つめてしまったトッシュは、今にも気を失いそうだった。
 人間ハンマーはまたも建物に叩きつけられようとしていた。
 リリスはトッシュの躰をよじ登った。
 密着する男と女の躰。
 魔気に当てられたトッシュはここが限界だった。意識が途切れた。
 リリスは構わず大柄な体躯を昇り、足首に巻き付いた土縄を掴んだ。
 土縄が溶ける。
「「ぐあああぁぁぁっ!」」
 至る所から土鬼の叫びが木霊した。
 土縄が途切れると同時に、解放されたトッシュの躰が天空に放り出された。
 魔鳥の翼のようにリリスの長い黒髪が靡いた。
 トッシュを胸の前で抱きかかえたリリスは舞い降りてくる。
 そして、羽毛のように地に降り立った。砂一つ舞い上がらない。
 リリスはトッシュを地面に寝かせ、広大な砂地に向かって微笑んだ。
「さあ、どこからでも掛かってお出で……坊や」
 マシンガンのように土弾が連射させた。
 リリスは避けようともしない。その必要がないのだ。
 土弾はリリスに触れることも敵わず、見えない壁に当たって溶けて消える。
「うぉぉぉっ、おらの攻撃が、なぜ効かねえ!」
「所詮、汝はアーティファクトに過ぎぬと言うことじゃ。一見して砂粒に見えるが、実際はその一つ一つが高性能のナノマシン。厄介と言えば厄介じゃが……」
 四方から現れた砂のカーテンがリリスを包み込んだ。
 土で固めて窒素させる気だ!
 それも触れることができたらの話。
 土のカーテンが溶けて流れる。
 何事もなかったようにリリスは微笑んでいた。
「ナノマシンが失われるたびに、汝の力は減退していく」
 リリスの視線の先で土鬼が人型を模った。以前は五メートルはあった身長も、今では一メートルほどしかない。広がる砂の大地は無限に思えても、土鬼の本体は限られているのだ。
「ぶっ殺してやる! おらは強い、負けねえ!」
「そう……己の能力をもっと匠に使いこなせたら、強くなれたじゃろうな。それでも妾には勝てんが」
 土鬼は致命的なミスを犯していた。
 妖しく輝くリリスの瞳は?すべての土鬼?を捉えている。