魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-
〈レッドドラゴン〉を握る手には、この銃と同じく遺跡で見つけたグラブがはめられ、グラブ、アーム、上半身のプロテクターとが繋がっており、衝撃を吸収すると共に筋力を増強して怪力を生み出す。
四発の銃弾で四人の兵士を仕留めた。
この場で待ち伏せしていた兵士の数が五人。一人は土鬼が仕留めてくれた。これで残るは土鬼のみだ。
しかし、化け物である〈レッドドラゴン〉を持ってしても、粒子である砂にはダメージを与えられない。
戦闘がはじまったというのにアレンは惚けている。
頼みの綱はアレンの〈グングニール〉だと――トッシュは思っている。
「馬鹿野郎! 銃を撃てアレン!!」
駄目だトッシュの声に反応しない。
こうなったら仕方がない!
アレンの懐から、トッシュは〈グングニール〉を奪おうと思い立ったとき、巨大な土塊の足が落ちてきた。
トッシュはアレンに激突するように抱きかかえて、大きく前へ跳んだ。
足は狙いを外れ地面を大きく揺らした。
舞い上がる砂煙。
アレンを庇ったままでは戦えない――と判断したトッシュは、アレンをその場に残して走り出した。
「殺せるもんなから殺してみろ!」
挑発しながらアレンから離れるトッシュ。案の定、土鬼はトッシュを追いかけてきた。猪突猛進の相手で助かった。
しかし、危機は遅れてやって来た。
アレンの足下が崩れだした。おそらく先ほどの振動で、何らかの変動が起きたのだ。
砂と共に地面に呑み込まれるアレン。
トッシュはアレンを救うどころではなかった。
「糞ッ、こいつをどうにかしないことには……」
アレンを助けられない。
砂はクッションの役割を果たし、アレンを優しく受け止めた。
地上から落ちた衝撃で、アレンは正気に戻っていた。
「どこだよここ……?」
天井から差し込む光、砂が崩れながら滝のようにまだ落ちてきている。
穴から見える感じだと、どうやら部屋二つの天井を破って落ちてきたらしい。ただ、ここが一階なのか、二階なにか、それとも三階なのか、建物の元の高さがわからなので検討もつかない。
登る術がないので、あの天井の穴からは地上に出られそうもない。
「おーい!」
大声は地下に響いただけ。助けは来ない。
「ったく、みんなどこ行っちまったんだよ」
周りを見回すと、そこは民家の一室のようだった。
テーブルやソファや何かの機械が置かれている。
アレンは部屋の灯りを探した。
それらしき壁のボタンを押してみたが、なにも起こらない。間違ったボタンを押した可能性もあるが、動力自体が失われているのだろう。
先に進むとしても灯りは必要だ。穴まで登るとしても道具が必要だ。
アレンは部屋を物色しはじめた。
戸棚などを開けていく。
この時代では見たこともない物も多いが、形は少し違えど今も残っている物も多い。
「懐中電灯みっけ」
それは今の時代の物より小型で、少し見た目も違っていたが、電球の代わりであろうパーツと、その周りの銀色のフィルムなどの形状で判断できた。
角の取れた長方形の本体と、腕に巻くであろうベルトで構成されている。ベルト腕に巻いて、本体のスイッチを押すと、光が腕の向いた方向を照らした。
「もしかしたらレーザーとか出るんじゃないかって、ちょっと期待してたんだけどな」
そういう形に見えなくもない。
光を手に入れ、さっそくアレンは先に進むことにした。
廊下に出て、先に進み、ドアの前に立った。
ドアにはノブはなく、大きなボタンがついていた。
ボタンを押すが反応がない。ここも動力がなかればどうにもならないらしい。
「自動化ってこういうとき困るんだよな」
いざというときの手動開閉装置がないか探した。
壁に亀裂を見つけ、そこに小さなふたを見つけた。開けると中には、片手で回すハンドルが入っていた。
アレンはオールを漕ぐようにハンドルを回す。
すると徐々にドアがスライドして開いて、その隙間から砂が流れ込んできた。
「ヤバっ!」
慌てて閉めようとするが砂に押されて閉まらない。
砂はどんどん流れ込んでくる。幸い少しの隙間だったので、川の激流のように流れてくることはなかったが、それでもいつかは部屋の中まで埋まってしまいそうだ。まるで砂時計の中に閉じ込められたようだ。
本当にこの場所がすべて埋まったとしたら、落ちてきた穴を登ることも可能だろう。だが、多くの砂が部屋に流れ込んでくると共に、それが今度は防壁の役割も果たして徐々に流れは遅くなる。そう考えてペースを予想すると、アレンの腹が持ちそうにない。
「腹減った」
すでに空腹状態だ。
ただの空腹だといいが、人間は水をまったく摂取しない状態で一週間前後、水さえあれば一ヶ月以上は生きられると云われている。そのころにはさすがに、砂は天井まで達していそうだ。
「腹減ったなぁ。携帯食料じゃ腹の足しにならねえっつーの」
車での走行中、アレンは何度も人の住んでいる場所に立ち寄ろうと言ったが、全員に反対されてちょっとばかりの携帯食料で我慢していたのだ。
アレンは元の部屋に戻って穴を見上げた。
本来なら、この程度の高さなどアレンはジャンプで届く。だが、この部屋と同じく今のアレンには動力がなかった。
「腹が減って力が出ねえ」
よろよろよしながらアレンはテーブルやイスを運んだ。それを積み重ねて上の階に登るつもりだった。
瓦礫の塔を完成させて、どうにか上の部屋まではよじ登ることができた。
問題はここから先だった。
次の穴を抜ければ天井なのだが、穴の真下に足場はないため塔を組めないのだ。床の穴ギリギリに塔を設置した場合、それでは天井まで行けたとしても、そこから砂の高さと滑りやすさがあり、手で掴む場所もなく登れない。
下のフロアから塔を増設しても、バランスが悪くてこれ以上は崩れそうだ。
アレンが為す術もなく穴を眺めていると、逆光を浴びた人の顔が覗いてきた。
「お助けして、あげんしょうか?」
紅を差した唇が艶やかに笑っていた。
《3》
銃声がここまで響いてきた。
この場で待つように言われていたセレンは居ても立っても居られない。
「今の銃声ですよね?」
顔を見られたワーズワースとリリスは冷静だった。
「銃声なら敵と遭遇したってことだよね。だとするとここも危ないんじゃないかな」
「そうじゃな、他人の心配より自分の心配をしたほうがいいよお嬢ちゃん」
二人とも雑談のような落ち着いた口ぶりだった。
慌てているのはセレンだけ。
「ええっと、そうだ、トランシーバーで連絡します!」
セレンはトランシーバーを使おうとしたが――。
「これどうやって使うんですか?」
使い方がわからなかった。一昨日トッシュに教えてもらったばかりなのに。
ワーズワースがトランシーバーを優しく奪った。
「僕がやるよ」
周波数などはすでに設定してあるので、ボタンを押しながらしゃべるだけだった。
「こちらシスターとゆかいな仲間たちです、どうぞ」
ザ、ザザザザザ……。
《こっちは取り込み中だ! あとにしろ!!》
トッシュの怒鳴り声はトランシーバーの外に大きく漏れてきた。
構わずワーズワースはしゃべる。
作品名:魔導装甲アレン2-黄昏の帝國- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)