魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-
含みのあるリリスの言い方だ。リリスはいったいどんな情報を見たのか?
情報の入ったノートパソコンはトッシュの膝の上に置かれている。
「お前らもむやみやたらと他言するような奴らじゃないことは、短い付き合いだがわかっている。この中身が知りたいなら、その情報を使って俺様がやることに協力しろ。それが条件だ」
アレンは身を乗り出していた躰を引いて、座席に深く腰掛けた。
「俺パス。めんどくさいことに巻き込まれたくないし」
セレンも首を横に振った。
「わたしもこれ以上は……」
これ以上は付き合いたくないが、トッシュたちと分かれれば、独りで帝國に追われるハメになる。
トッシュと共に行動して、より深みにはまっていくのか。
アレンと放浪の旅をして、帝國の影に怯えて逃げ続けるのか。
リリスと共にという選択肢はないのだろうか?
申し訳なさそうにセレンはリリスに声をかける。
「あのぉ、リリスさん?」
「なんじゃな?」
「リリスさんのところでわたしを匿ってもらうわけには〜……家事とかならなんでもできますから!」
「わしは自分の世話くらい自分でできるよ」
やんわりと断られたのだろうか。
リリスは話を続けた。けれど、それは今の続きではなかった。
「おぬしら本当に情報を聞かなくていいのかい? たとえおぬしら、いや、すべての人々に関わるような重要なことでもかい?」
中身を知っているリリスの揺さぶりだ。
しかし、その程度の揺さぶりではアレンは落ちない。
「勝手にすべての人々に入れられてたまるかよ。俺は自由だから、そーゆー枠組みに囚われないで生きてるしカンケーないね」
一方セレンは悩んでいた。
「すべての人々……ここで聞かなくても、巻き込まれるってことですか?」
リリスが答える。
「巻き込まれるって言い方は正しくないね。もしそれが実現したら、人々も恩恵に預かれるってことさ」
小出しにされるヒント。
ここでトッシュが止めに入った。
「あまり中身について言わないでもらいたいんだが。言ってもいいのは、こいつらが協力すると誓ってからだ。俺様の中身を見てないから、どういう協力になるかはわからんが」
アレンは窓の外を眺めている。セレンはまだ迷っているようだ。
少し無言の時間が流れた。
「あっ!」
急にアレンが声をあげた。
横にいたセレンが驚く。
「どうしたんですか!?」
アレンは窓の外を指差した。
「あれってこっちに向かって手振ってんのか?」
窓の外に見たモノは人影だった。
セレンが前の席へ身を乗り出した。
「トッシュさん止めてください!」
「放っておけ」
「そんなことできません、早く止めてください!」
「ったく、シスターはお人好しだなぁ」
トッシュはハンドルを切ってその人影に向かって走り出した。
どんどんとその人影がはっきりと見えてくると、セレンは驚いた顔をした。
「あの人!?」
横のアレンが尋ねる。
「知り合いかよ?」
「はい……まあ、そのようなものです」
そして、車は人影の前で止まった。
手を振っていたのは青年だった。
空色の髪をした無邪気な笑みを浮かべる青年だ。
「よかったぁ。やっぱり車だったんだ、変な形だから心配だったんですよ」
セレンが見覚えのある人物――ワーズワースだった。
ワーズワースはドアを叩いた。
「ちょっと乗せてもらえません? クェックに乗って旅をしていたら、なんと盗賊に襲われてしまって、命はこのとおり助かったんですけど、クェックはどっか行っちゃうし、食料もお金も全部落としてしまって。あの、聞こえてますこっちの声?」
それが砂漠の真ん中でぽつんといた理由らしい。
トッシュがつぶやく。
「これ四人乗りだぞ?」
「詰めれば後ろにもうひとり座れます!」
人助けになると強気なセレンだ。
アレンは無言で詰めて座った。
それに気づいたセレンはちょっぴり笑顔になった。
トッシュは頭を掻いて溜息を漏らした。
「ったく、シスターの知り合いじゃ仕方ない……か。ツイてる旅人だな」
後部座席のドアが開かれた。
乗り込んできたワーズワースは驚いた顔をした。
「あっ、セレンちゃん。奇遇だね、運命だね、神のお導きだねぇ〜」
嬉しそうな顔をしてワーズワースはセレンの横に座った。狭いせいなのか、かなり密着してくる。
リリスがつぶやく。
「旅は道連れ世は情け……古き良き時代の懐かしい昔の言葉だね」
こうして思わぬ人物を加え、旅人は五人となった。
車は何もない砂漠を再び走り出した。
作品名:魔導装甲アレン2-黄昏の帝國- 作家名:秋月あきら(秋月瑛)