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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導装甲アレン2-黄昏の帝國-

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 さっそく名前を呼ばれてセレンはなんだか気恥ずかしかった。
 出会ったばかりなのに、どんどん距離を縮めてくるワーズワーズに戸惑う。
「わ、わたし行きますから。くれぐれもよろしくお願いしますからね!」
 セレンは走り出した。
 このまますぐ教会を飛び出す勢いだったが、ちゃんと金品の蓄えは持ち出した。無闇に人を助けても、しっかりするところはしっかりしているらしい。

《3》

 まだ人々が眠っている早朝。
 速やかに密やかに作戦が遂行されていた。
 なによりも重宝したのがリリスの助援であった。
 見張りの男を立ったまま硬直させ、声を出せない状態にしたリリスの術。遠めから見る分には、見張りを続けているように見える。これによって少なからず、発覚までの時間が延ばせただろう。
 トッシュが活躍する機会など与えられぬほど、リリスは積極的に動いた。これも気まぐれだろうか?
 なにもしなくていいと言われていたアレンだったが、実際に何か起これば働かなくてはならなかっただろう。けれど、その機会もついにやって来なかった。
 前にもこの場所に来た。
 何もない扉。何もないが故に、限られた者しか開けることができない。
 また再びリリスがこの扉を開いた。
 部屋の中は前となんら変わらない何もない部屋。
「おぬしらはここで待っておれ」
 そう言ってリリスはほかの部屋に移動した。
 トッシュは驚いた。
「ほかの部屋があったのか!?」
「知らなかったのかよ? なんかいろんな部屋があって、いろんなもんが収納されてるみたいだぜ」
 アレンが譲り受けたエアバイクもここで手に入れた。
 驚きと共にトッシュはショックを受けていた。
「だったらここはトレジャーハンターにとって夢の場所じゃねえか。こんな近くに宝の山があったのに、今まで俺様はなにをしていたんだ」
 後悔も押し寄せてきた。
 トッシュは床や壁を調べはじめた。
 だが、リリスのように開くことができない。
「なあ、これどうやって開けるんだ?」
「俺に聞くなよ。リリスに聞けばいいだろ」
「ここのもん勝手に持ち出すのに、あの婆さんに許可取るなんて莫迦か」
「おいおい、持ち出すなら許可取らないあんたのほうが莫迦だろ」
 アレンに構わずトッシュは開き方を調べ続けた。
 床、壁、天井、凹凸一つない。
 仕掛けらしき仕掛けがなく、どうやって開くべき扉すらどこにあるのかわからない。
 探せど探せど手がかりもなく時間だけが過ぎていく。それでも宝を目の前にしたトッシュは諦めることを知らなかった。
 そのうちアレンも暇になってきて、辺りを調べはじめた。
 リリスが扉を開けるのを前に何度も見たアレンは、それをよく思い出してみることにした。
 ――ただ触れただけ。
 そうとしか見えなかった。
 その動作だけで、亀裂のなかった場所から箱が出てきたり、次の部屋の扉が現れたりした。
 ためにしアレンもただ触れた。
 当然の反応であると言わんばかりに何も起きない。
 おそらくただ触れるだけは駄目なのだ。それでいいのならば、さきほどからトッシュがむやみやたらに触れており、下手な鉄砲も数を撃てばそのうち当たりそうなものだ。
 ?触れる?とい動作は必要な動作なのだろう。?触れる?からには、触れた瞬間に何かをしているはずだ。
 アレンは考えた。
 考えた結果……わからなかった。
「糞ッ、わかるかんなもん。ぶっ壊してやる!」
 〈グングニール〉が抜かれた。
 それを見てトッシュは慌てアレンに飛び掛かろうとした。
「馬鹿野郎!」
 しかし、これ以上近付くのは危険だった。
 アレンが引き金を引いたのだ。
 稲妻が床に当たった瞬間、アレンの躰が海老反りになって飛び上がった。
 瞬時にトッシュは自らの意志で高くジャンプしていた。
 一瞬にして電流が部屋中を駆け巡った。
 倒れたアレン。
 着地したトッシュ。
 すぐにトッシュはアレンの様子を見るのではなく、自分の靴の裏を調べた。
「なんだよ、ちょっと溶けてるじゃねえか」
 ジャンプは間に合わなかったらしい。けれど、ゴム底は電気を通さなかったようだ。
 靴を調べ終わると、トッシュはアレンの頬をぶった。
「おい、寝てないで起きろ。飯だぞ!」
「う……ううっ……ひでえ目に遭った……」
「自業自得だろ。おまえ本当に莫迦だな」
 アレンのブーツは、その機動力を生かすために頑丈な金属でできていたのだ。
 どこかで〈歯車〉の音がした。
「糞ッ……勝手に……」
 アレンは歯を食いしばりながら胸を押さえた。
「おいっ、どうした?」
 目を丸くしたトッシュはアレンの顔から汗が噴き出すのを見た。
 汗は尋常な量ではない。
 トッシュはアレンの頬に触れて見た。
 燃えるように熱い。
「おいっ、大丈夫なのか!?」
 どこかで〈歯車〉が激しく廻る音がした。
 部屋が動き出す。
 何もなかった壁や床に、直線で構成された迷路のような光の線が走った。
 大小様々な箱が次々と現れる。
 扉という扉が次々と開いていく。
 部屋にあったものがすべて解放されているのだ。
《認証完了しました》
 合成音が響いた。
 そして、最後の部屋の中心に現れた巨大な球体。
 それはシャボン玉のように、流動しながら七色に輝いていた。
 球体からホログラム映像が投影され、宙に映像が映し出された。
 映像は酷く乱れ、ノイズでかろうじて人が映っているのがわかる程度だった。
《……サイゴノ……キボウ……》
 音声も途切れ途切れだ。
《アナタガ……ワタシノセイシン……コノヨニ……》
 アレンは瞳を見開き驚いた顔をして硬直したまま。
 なにが起きているのかトッシュは理解に苦しんでいた。
「なんなんだ……なんのメッセージだ?」
 おろらくこれは今通信されているものではなく、残されていたメッセージだ。
 メッセージには必ず受け取るものがいる。
 このメッセージはいったいなんの目的で残されていたのか?
《……オソロシイケイカク……アナタダケ……ラクエン……スベテハソコニ……》
 ノイズがさらに酷くなっていく。
《……ホントウニ……ごめんなさい》
 最後の言葉だけ、はっきりと女性の声で聞こえた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 突然アレンが叫んだ。
「どうした!?」
 慌ててトッシュはアレンを押さえる。
 アレンは狂ったように床の上を転げ回りながら暴れた。
 艶やかな風が吹く。
 場を一転させるほどの存在感を持つ者がアレンの前に現れた。
 妖女リリス。
 世にも美し過ぎて怖ろしいリリスの顔が、半狂乱のアレンと向き合った。
 リリスの瞳が妖しく輝いた刹那――アレンは気を失った。
 すぐにトッシュがアレンを抱きかかえた。
「こいつに何があったんだ?」
 と、アレンに視線を向けてリリスから目を離し、再びリリスに視線を戻すと――すでにそこにいたのは妖婆だった。
「まったくとんだ邪魔が入ったね。この子のせいでシステムがちょいとイカれちまったよ。メモリの情報を取り出すのに二、三時間は掛かるから大人しく待ってな」
「二、三時間も掛かるのか? この糞餓鬼のせいでか!?」
「今は寝かせておやり。起きたらこっぴどく叱ってやるんだね」